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店長神保和香子

 まぼろし書店神保町店/第10回は『雪月花のこころ/桜の巻』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)


 3月も下旬になると、天気予報で、桜の開花前線の北上が報じらるようになります。今年は何処で桜見物をしようかな…と、お花見準備に余念の無い方もいれば、「花粉症の自分は一生お花見とは縁が無いのだ!」と、インドア派宣言をせざるを得ない方もいるでしょう。お仕事が余りに忙しくて、花見どころではない、という方もいらっしゃるかもしれません。どんな方でも、お気に入りの「一冊」が見つかるといいな、と思いつつ、今回は「桜の本」をご紹介いたします。

「桜よ」 アマゾンへようこそ!

「桜よ」
佐野藤右衛門
集英社文庫
4-08-747669-3
税込価格630円

 副題に『「花見の作法」から「木のこころ」まで』とあるとおり。佐野藤右衛門は京都の「植藤造園」16代目。御先祖は御室桜で有名な仁和寺の植木職人さんです。祖父の代よりの「桜守」三代目の、歯に衣きせぬ発言は爽快。根尾谷の薄墨桜の章では、「宇野千代さんがいらんこと言ったから、もう、観光資源になってしまったんです。ここの桜も、ほっといてくれって言ってるのに」と一刀両断。過保護にしすぎると、自分でがんばろうという気持ちをなくしてしまう、人間も桜も同じやね、だそうです。
 陽気な桜守、藤右衛門流の最高の花見とは。「桜を見に行く時は、雨の日がよろし。雨の日は、お花見もやってませんから、静かだし、傘をさして二人連れや。」「傘はやっぱり、蛇の目か、唐傘。相合い傘で寄り添って、桜見物。雨が降っているからといって、桜の花の下に入ったら、あかん。二人で春雨の夜に、仲の良さを桜に見せつけるように、肩寄せあってな。風呂上がりだと、なおええな」
 こんな粋なおじいちゃんのお小言だったら、喜んで拝聴したくなりますよね。お花見シーズンの前に、是非とも読んでおきたい、桜愛好者の必読書です。

「桜(HANA)酔い」 アマゾンへようこそ!

「桜(HANA)酔い」
五島健司
そしえて
4-88169-687-4
税込価格3,990円

 「桜酔い」と書いて「はなよい」と読みます。
 私はもともと、五島健司という写真家さんが好きで、この写真集が出版された時に「夜桜」がテーマと知り、なるほど、と思った記憶があります。 彼は二十年という永い年月の間、ただひたすら夜桜を撮り続けてきたといいます。それだけの情熱と執念は何から生まれたのでしょうか。
 横長の大きな写真集の頁をめくると、次々に現れる、闇の中でひっそりと咲き誇る桜の姿。桜は満開で、妖しい位に美しく咲いているけれど、静寂が支配している。その妖しさは幻想ではない、ただ、静かに存在しているのだ。

 さらに夜桜を堪能したいという方には、次のような写真集もあります。「夜桜」

「夜桜」/清水洋志/新潮社とんぼの本/4-10-602087-4/税込価格1,575円
 五島健司の夜桜が「静寂」ならば、こちらの夜桜は「生命」。様々な表情の夜桜を楽しめます。
「日本の夜桜」「日本の夜桜」/庄子利男/光村推古書院/4-8381-0347-6/税込価格1,680円 
 夜桜見物のガイドに便利な一册。ライトアップされた夜桜の写真集、アクセスなどのガイド付き。

 そしてさらに、桜を撮り続けている写真家の本を紹介しましょう。森田敏隆、宮嶋康彦どちらも桜愛好歴の長い写真家なだけに、古木の全体像なども美しく撮られています。

「この桜、見に行かん 日本の桜ベスト30」
「一本桜」
「一本桜百めぐり」

「この桜、見に行かん 日本の桜ベスト30」/宮嶋康彦/文芸春秋/4-16-365700-2/税込価格1,365円
「一本桜」/森田敏隆/講談社/4-06-210519-5/税込価格2,940円
 続編の「一本桜百めぐり」(講談社/4-06-212284-7/税込価格2,940円)も出版されています。

「中島千波さくら図鑑」 アマゾンへようこそ!

「中島千波さくら図鑑」
中島千波
求竜堂
4-7630-0210-4
税込価格2,940円

 「絵は平面ですが、実際の桜は立体なわけです、もう相当にでかくて凄いものが、うわーってあたり一面にひろがっているのを絵の中で表現する。それが面白くってやめられないんです」と語る日本画家・中島千波。
 桜に魅せられた画家が描き続けた「桜」作品(日本画・デッサン・版画・挿絵)約600点を収録した、まさに「さくら図鑑」。特に興味深いのは、膨大な数のデッサンと本画を対比させた構成です。 もしかして、そうかもと思っていましたが、十何枚もスケッチブックの頁をセロテープで継ぎ足し継ぎ足しして、巨木をデッサンしているんですね。樹木フェチの私には、正確にデッサンされた枝の伸び具合、樹皮の様子など、本画と同じ位に魅力的で、見飽きません。
 全くの余談ですが、お髭が素敵な著者近影を見るまで、私は中島千波は女性だと根拠なく思い込んでおりました。あぁ、恥ずかしい。

「桜と日本人」 アマゾンへようこそ!

「桜と日本人」
小川和佑
新潮選書・新潮社
4-10-600440-2
税込価格1,155円

 「古代の日本、『万葉集』や『日本書紀』では、咲き匂う山桜は美しい乙女として讃えられていたんだってさ。ところが、江戸時代になると、あの『仮名手本忠臣蔵』の登場で『花は桜木、人は武士』という台詞とともに「散り際の美学」の象徴として祭り上げられるようになってしまった。昭和の文人達でも、桜愛全開の三好達治や梶井基次郎のような人もいれば、満開の桜を『襤褸のように憂鬱』と切り捨てている芥川龍之介のような人もいる。太宰治なんて『食塩の山』とか「蛙の卵』とか言っている。ひどいよね。でも、まぁ、美を感じる心は人それぞれ、時代によっても移り変わるものではあるよね」  というように、 「桜と日本人」で予習しておけば、あたかも、文学に造詣の深い人間であるかのような発言で、お花見の場をぐっと高尚な雰囲気にする事が可能なのです。  五味康祐、隆慶一郎、夢枕獏といった辺りまでカバーしているので、「文学史」といえども、意外に楽しく読み進める事が出来ます。桜の季節毎に、話のネタ本として重宝する事でありましょう。

 以下は、私の発掘した、「桜の文学史/エンタテイメント部門」です。

「桜さがし」「桜さがし」/柴田よしき/集英社文庫/4-08-747554-9/税込価格650円
 中学時代に同じ新聞部だった四人と、彼等を見守る元教師の中年男。 せつない青春群像を描く、ミステリ連作集。なのですが、京都を舞台にしている事もあり、季節感豊かで、風変わりな味わいを持つ作品になっています。私なんぞは、青春群像の中心の若者達よりも、彼等のお守り役で渋い味を出している「おっさん」の方に肩入れしてしまいますね〜。 教職をリタイヤして、京都の山奥にログハウスを建てて住んでいる推理小説作家。内藤剛に演ってほしい役どころです。

「妖櫻忌」「妖櫻忌」/篠田節子/角川文庫/4-04-195903-9/税込価格540円
 ジャンルとしてはホラー小説になるのでしょうが、「恐怖小説」と呼びたい私です。変死した女流作家。死してなお、消えない愛執の念。情念の炎。同性として、心底、恐ろしい思いで 読みました。「妖櫻忌」とは、本当に素晴らしいタイトルをつけたものです。

「李歐」「李歐」/高村薫/講談社文庫/4-06-263011-7/税込価格750円
 高村薫のあの文体が苦手…、という方にも、安心してお勧めできる一冊。
 巻き込まれ型のストーリー展開で読みやすく、主人公も(高村薫にしては)まっとうな感覚の持ち主。平凡なアルバイト学生と、中国人の美貌の殺し屋。二人が見た大陸の夢は遠く厳しい。桜の巨木が大層印象的な場面で登場します。

「桜の木 丹地保尭写真集」 アマゾンへようこそ!

「桜の木 丹地保尭写真集」
丹地保尭
小学館
4-09-681081-9
税込価格3,360円

 最後にご紹介するのは、「桜の木」の写真集。「桜の写真集」ではありません。緑が眩しい夏、夏の陽に透ける葉脈の美しさ。栄養分を十分貯えた後に、潔く落葉していく秋。赤、黄、朽葉色、橙色。美しい樹のシルエットが楽しめる冬。そして花の季節、春。一年があるからこそ、春の満開の季節がやってくる。 四季折々の様々な表情の「桜の木」を、くっきりと切り取り出して見せてくれる、一冊です。
 花を散らした後の「桜の木」をじっくりとながめた事があったでしょうか。新緑の頃、ご近所の桜の木の、あのゴツゴツとした幹を、そっと撫でてみたいな。そんな気持ちになりました。

 第10回『雪月花のこころ/桜の巻』、いかがでしたか。
 「雪月花のこころ」シリーズとして、秋には「月の巻」を予定しています。リクエスト・情報提供など、心よりお待ちしております。
 どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。


『懐かしの町・街角散歩/後編』
『懐かしの町・街角散歩/前編』
『だまされる快感』
『秘密基地大作戦』
『疾風の新着情報!!』
『疾風の新着情報!』
『入魂の一冊』
『名画座の時代』
『あのころの風景』


2005年3月29日更新
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