いつの時代も東京観光の定番といえば浅草で、誰しもが二度三度は訪ねたことがあるだろう。浅草寺、演芸場、花やしきなど、下町情緒と懐かしさを感じさせる街として人気だが、せっかくなら浅草の温泉にも立ち寄ってほしい。
浅草では歴史の古い蛇骨湯、展望露天風呂のROXまつり湯がよく話題に上る。しかしマニアックなあなたが訪ねるべきは浅草観音温泉だ。建物は蔦に覆われ、看板には「唄と踊りで今日も楽しく」「酒は大関」「男は黙ってサッポロビール」。さっそく強烈なインパクトを放っている。
かつての賑わいを物語るがごとく、無数の下足箱。傍らの絵は21世紀の理想郷を描いたのだろうか。懐かしさすら込み上げる館内の先には、もう動かないバンビさん。哀しすぎる。
湯船は半円を2つに仕切り、片方には「熱い VERY HOT」とあるが、どちらも大して変わらない。蛇骨湯と同じく黒湯のはずだが、循環ろ過のせいか黒さは抜け、ほぼ無色透明。湯船の底で塩素錠剤をシュワシュワさせるとは潔い。そして人魚を描いた下手くそなタイル絵。
唄と踊りで今日も楽しかったのは、いつの時代か。浅草観音温泉が放った一時代の輝きに思いを巡らせてみる。時が止まっているからこそ、年配客には懐かしく、若い客には新鮮に映るはずだ。