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串間努

第1回「昆虫採集セットはなんでなくなったんでしょ」の巻


 この間、網戸の張り替えのチラシが新聞に折り込まれてきた。「どんな小さな虫も通さない網戸」なんてコピーに笑ったのだけれど、そういえば最近は玉虫とかカミキリ虫をめっきりみない。子どものころは郊外に住んでいたこともあって、虫なんてそこらへんにいっぱいいたから、虫取り網でヒョイと採ってくるだけの朝飯前だ。
昆虫セット さて、虫を捕ってくるとボクらはお医者さんになった。
 『昆虫採集セット』の注射器で「殺虫剤」をチューッと注射して死にいたらしめるのだ。腐らないために防腐剤の注射というのもあったけど、これって効かなかったのか、時間が経つと虫の半分がアリに食われていたことがあった。確かセットには「注射器/防腐剤/殺虫剤/毒びん/虫ピン/虫眼鏡(このへんは酒落みたいだな)」が入っているというパターンだった。
 防腐剤と殺虫剤の液は赤か青のプラボトルに入っていた。なんで赤と青だったのか。多分危険性を考えて赤が殺虫剤だったと思うが、鴻池綱孝さんの示唆によれば、「赤と青のボトルが大量に生産されていたからじゃないの」。
 なるほど、子ども向けの昆虫採集セット用にボトルを特注することは考えられず、そうなると既存のアリモノで済ます。そのとき多かった色がたまたま赤や青のボトルに過ぎなかったのか!
昆虫セット
 昆虫採集セットには、たぶん大人用のものが子ども向けにアレンジされて出来たという歴史があると思う。文具業界誌を調べてみたが、はっきりしたことはわからない。だが、昆虫を捕らえて殺虫し標本にするなどという趣味が、戦前にひろく子どもの間で行われていたとは思えない。昆虫採集趣味自体は大人の趣味としてあっただろうが、子どもの余暇あるいは学校の宿題としては、おそらく戦後であることが予想される。となると、戦争が終わってすぐには余裕がないだろうから昭和二五、六年以降だろう。実際に子ども用のセットとして確認できたのは昭和二八年であった。
昆虫セット
 戦前には、殺虫剤として「青酸カリ」という物騒なものが使われていたようで(もちろん成人むけの昆虫採集キット)昭和一一年の一月に、続発する自殺者を防ぐため、昆虫採集用の青酸カリが販売禁止となっている。
 青酸カリに代わる殺虫剤として何が開発されたのかわからない(いま、昆虫採集セット持っているけど、成分が書いてないのです。どなたか教えてください)。ともかくセットが市場にでるには、簡単に入手でき人体に害を及ぼさない殺虫剤と防腐剤が登場する必要があっただろう。

昆虫セット 当初の昆虫採集セットに入っていた注射器は、本物の小型製品を流用していたのかガラス製であった。ところが持ち運びに不便だったのか、昭和三一年にはスチロール製が登場し、続いて翌年、ポリエチレン製が発売された。いまから考えると標本作成時に注射器を使用するかと思えるが、当時はあくまで「採集セット」であり、採集場所に注射器を持参していたようである。そのためガラスのように落としても割れず、スチロール製の用にヒビも入らないで済むという特長が求められた。そして、このことは既にセット用の注射器が生産されるくらい、セットが売れていたということが予想される。
昆虫セット ただし注射器で問題となるのは、針のことであった。昭和四二年七月七日には、昆虫採集セットの注射針が飛び、「水遊び」をしていた少女が失明したというニュースが報じられた。このことを受け、業界がどう動いたかはまだ未調査であるが、採集セット凋落の一端を担った事件となったのではなかろうか。ただ、昭和45年ころまではまだ針つきのセットは売られていた。
昆虫セット その後もいつだったかは忘れてしまったが、駄菓子屋で売られていた注射器入りの水飴があめ玉、いや、槍玉に挙げられたりして、おもちゃの針付き注射器は受難の時代を迎える。
 ところで読者諸賢は予想したことであろうが、これらの措置は針が危険であるということと同時にアレと関係あるのではと思ったことだろう。そう、アレとは覚醒剤患者に注射器を入手させなくするためである。覚醒剤中毒患者が増えたために昆虫採集セットが売れなくなる、という一見関係なさそうな相関関係が両者の間にあるのではないだろうか。いや、もちろん虫もいなくなりましたけどね。


参考資料 

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