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第21回「「ライパチ」くんにも五分の魂の巻

日曜研究家串間努


 僕は運動がキライだ。運動会の前日には「明日がこなければいい」と思ったもんだ。こんな気持ち、スポーツ大好き少年にはわからないだろうな。

運動会

 ……などとワザとらしく回想口調にしているのは、ホントに運動会がキライで、ということは体育の時間もキライで、それが今でもトラウマになっているから、つい斜に構えてしまうのだ。未だに自分が体育がキライ、つまりヘタだったということに、真正面から向き合いたくない。運動が得意とか、人並みにできる者にとっては、不思議な悩みなんだろうけど、体育オンチの切なさは同類にしかわからない。しかもヘンにプライドがあるから、同類がヘタな体育をしているのを見るのもイヤだし、「オレ、小さいころ運動が苦手でさー」とカミングアウトしているヤツがいても「そうそう、オレもだった」と素直に話題に乗れないところがある。屈折しているのである。自分はそうではなかったことにしたいのである。だから運動オンチと公言している人を僕は心から尊敬する。
 なにしろ小学校の時の「人気」とか「実力」の判定は、頭の良さもさることながら、運動神経があるとか、筋力に優れているとか、足が速いというのが重要。高学年にもなれば女の子の視線だって気になるのだ。いいところを見せたいという気持ちはどの男子にもある。
 体育が出来ないやつにはいろいろあって、一番情けないのが運動神経が鈍くて他人の動きについていけないヤツ。まーそれがオレだけど。何をやらせても何ひとつできない。同じく「出来ない」ヤツでもこっちから見れば大儀名分があって、うらやましかったタイプもある。要するに三月生まれで同級生より生育が遅くて体力がないとか、太っていて、ドタドタとマラソンをしているようなタイプ。これらは周囲を説得できる。僕のように標準に育っていた体格なのに足が遅かったり、逆上がりができないのは「恥」だった。体育の時間が楽しみだったことなんてないね。いかに目立たないで一時間を終えるかに腐心した。風邪を引いて見学するのが嬉しかったくらいだ。

小学校

 運動神経がニブくても、個人競技で成績が低い分にはイイ。ところがこれが団体活動のボールモノでチームの足を引っ張ると大変である。サッカーはとりあえず主役みたいなのがいるので、ウロチョロしていて、ボールが来ても敵チームもだーっと殺到するのでごまかしていればいいが、ソフトボールがまずかった。
 なにしろ守っていると、ボールが確実に自分のところに来るのである。しかもヘタだから「ライトがアナだぞう」と狙わられるのだ。そしてバッターは「ウララーウララー」と山本リンダの『狙い撃ち』を歌いながら腰を振りやがる。……屈辱だった。
 よく「ライパチくん」と言って、ヘタなヤツをライトの八番バッターにするのは、世の中に右利きが多いから、ライトが一番、球が飛んで来ないという理由があるのである。
 だが。それでもたまにはフライが飛んでくるし、ファーストがトンネルするとこっちにゴロがやってくる。それをまたトンネルでもしたら、なぜかファーストは怒られなくてライトが「なにやってんだー」と罵声を浴びてしまう。ソフトボールやってんだよと言いたいけど口には出さないで「えへへ」とごまかす。これも屈辱の笑いだ。したくもない表情をするのは傷つくのである。ファーストやピッチャー、キャッチャーは、巧くて強いヤツがなる。自分のミスは棚にあげて、ライトはいつも「へたくそ、へたくそ、おまえがいるから負けたんだ」と白い目でみられる。当然、バッターになっても打てるわけなんかない! 球の上下左右三十センチくらいのところを振っている。「今のはボールだぞ」とベンチから野次られる。そんなこといっても当たらないものは当たらん。ストライクでもボールでも一緒だ。またも曖昧に笑いで濁す。どこかへ行ってしまいたかった。二回空振りすると「バントして当てていけ」とか言われる。でもバットに添えた右手親指をボールがかすっていくだけ……。バッターアウト。痛い。バッターアウトじゃない人になりたかった。「ランナー」というものになってベースを踏んで見たかったなー。
 こうして四時間目がソフトボールだった日は、みんなが喜んでいるのをよそに、情けなさと悔しさでライトの八番くんは給食が半分しかのどを通らず、昼休みもじっとみんなが「忘れてくれる」のを待つのである。
 一度でいいから各クラスからヘタクソなのを選りすぐって一チームを編成してゲームをして見たかった。きっと伸び伸びとできただろうなあ。
 たとえライパチくんだって、五分の魂があるので、自分がホームランを打つ夢は持っているのである。

書き下ろし


2006年9月15日更新
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