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株式会社マルシンフーズ 石井食品株式会社

第16回「マルシンハンバーグは
       なぜ焼けるのか」の巻

日曜研究家串間努


 先日、洋食屋の前を通った時、ショーケースの中に目玉焼きが乗っかっているハンバーグを見た。懐かしい姿だ。昔は家でハンバーグを作って食べるという食習慣はあまりなく、デパートの食堂など、「お出かけ先」で食べるゴチソーだった。それを家庭に普及させた代表的メーカーが二つある。マルシンとイシイだ。
チキンハンバーグ 焼かずにお湯で温めるという、レトルトハンバーグを出した石井食品は、もともとは地元千葉でとれるアサリなどの佃煮を作っていた。しかし、先代社長が「これからの日本人の食事は洋風化の時代となるだろう」とノストラダムスばりに予測し、家庭で食べられる本格的で手軽なハンバーグを作ろうと思い立った。
 ハンバーグといえば、普通は「牛肉」だが、チキンハンバーグとしたのは理由がある。関東の食肉習慣を調査したところ、牛よりも鳥と豚を食べる人が多かったのだ(関西では肉イコール牛なので一年後の関西進出時にビーフハンバーグを発売する)。

 ハンバーガーがまだ普及していない時代、外で食べる高級なパンといえばホットドッグだった。千葉市にあったNデパートの屋上には、フランクフルト様の長いソーセージを一本挟む本格的ホットドッグスタンドが店を構えていた。

 マクドナルドが千葉にできたころ、そのスタンドも「ハンバーガー」をメニューに加えた。値段はアンパンよりは高いが、マクドナルドよりは安い。ある時友達数人と屋上でゲームをしたあとに「一回食ってみようぜ」ということになった。カウンターの中のおばさんはまず、丸いパンを半分に切って、オーブントースターに入れた。続いてフライパンを温め、冷蔵庫から何かを取り出した。ビリリと白い紙を破る。「あれマルシンハンバーグじゃないか」「うっそー」私たちは、どこがどう違うのかははっきりとは説明できないけれど、いつも家庭でおなじみの小判型「マルシンハンバーグ」を使うのは、なんとなく反則じゃないかと感じていた。母親がコッペパンに『魚肉ソーセージ』をはさんだものを「はい、ホットドッグ」といって出したのと同じような違和感だった。「一本とられたな」と思いながら私はおばさんの調理の手をみつづけた。

みみちゃん 「マールシン、マールシン、ランラララ、ラララー」というハミングでお馴染みの、マルシンフーズは「もんじゃ焼き」で有名になった月島で、新川有一が有明商店を創業したことに始まる。ブランドは社長の名字を丸で囲んでマルシン。築地市場で働いていたこともある新川は、創業当初は魚の切り身のモロミ漬けや、にこごりなど食品加工をてがけていた。
 マルシンが全国的メーカーに飛躍するのはハンバーグの発売によってである。昭和三七年に一四円で発売された。

 当時の一四円といえば納豆やメザシと同じくらいの庶民的な値段だった。しかしそのころの日本人はカレーライスに豚肉を入れないで、魚肉ソーセージやサバを入れていた人もいた時代で、食生活がいまほど欧米化されていない。「ハンバーグ」という『肉食文化』が普及するには時間がかかった。そのためマルシンでは、全国各地で試食キャンペーンを行い実際に焼いて見せた。
 「築地市場で働いている食品のプロたちでさえ『ハンバーグ』を知らなくて『さつま揚げのオバケかい』といったそうです」(マルシンフーズ)。

 私が子どものころは、なぜか魚屋さんでマルシンハンバーグを売っていたが、それもそのはず、初期のころはマグロや鯨の肉を使っていたからだ。今は捕鯨が禁止となったので、原材料は変わっているが、味は変えない努力を続けている。

マルシンハンバーグ マルシンハンバーグのパッケージは目立つ。他のハンバーグが透明包装なのに対して、ロウ紙のような紙に包まれていて中味が見えないのである。袋をよーく見ると鉄道のキップのように「MARUSIN MARUSIN……」という細かい字が地紋として並んでいる。サブミナル効果かもしれない。そして中央には森永牛乳の「ホモちゃん」や、根本進の漫画「クリちゃん」(誰も知らねーか……)に似た、天然パーマにリボンを付けた「みみちゃん」が描かれている。袋にはひらがなで名前が書いてあるが、由来はおいしさを意味する「美味」から来ているという。髪の毛のカールが魚を、リボンの曲線が豚の尻尾を、それぞれ表している。原材料に魚と畜肉を使っていることを表現したらこうなった。みみちゃんのクセに「耳」が書かれてないのが不思議だったがこれで納得がいった。

 特徴はラードがコーティングされてること。これは買ってきてすぐにフライパンで焼けることが狙いだと思っていたが、その他、油が肉を被覆することで空気を遮断し、酸化が防げるため痛みにくいという利点もあるという。社長が考えたアイデアだ。

 バブル経済以後は高級化路線が進み、数年前からはソース別添や「焼き目つき」などバリエーションも増えた。しかし、高級化は価格にはねかえるのでうまくいかないと、マルシンフーズは言う。本物志向で高価格になるのなら、逆にレストランで良いものを食べた方が良いのだ。
 
 マルシンハンバーグは単品では今でも業界一の販売数を誇る。安くてボリュームがあるから下宿学生の味方である。今でも昭和四〇年代の食卓が再現できる、ロングセラー商品だ。ちなみに、元横浜ベイスターズの大魔神・佐々木主浩投手は試合の前、必ずマルシンハンバーグを食べていたという。

報知新聞とGON!と毎日新聞をあわせて改稿


2005年7月15日更新
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[ノスタルジー商店「まぼろし食料品店」]
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第12回マクドナルドが「ジャンクフード」になるなんての巻
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