第2回 水戸の駅前商店街漫歩・後編

(前回の続き)

あんこうの店●泉町にあるう元祖あんこう鍋というこのお店は全国区になったあんこう料理の先がけの店らしいです。茨城があんこうの名産地とは知らなかったが、あんまりあんこう料理やなまず料理はたべなれてないので、元祖といわれてもどこがどう違うんでしょうか。およそ元祖・老舗・本家・本舗などと言い張るのは店にとってのプライドの問題であって、元祖の心意気を持って調理にあたる気構えとして使っている分にはいいですが、こちらにまでアナウンスされるのは......。
思わず「元祖ならうまいだろう」と思ってお店に入っちゃうじゃないかよ!

東京三菱銀行

東京三菱銀行

とにかくこの建物のカーブがいいですね。向かいに建っている東京三菱銀行のシンメトリーがかもし出す荘厳さもいいのですが、会館は角地に建てている関係上、カーブを出すことで微妙な高級洋風感覚が出ています。三菱銀行は確かにいまはレトロですが、味わい、風合いという意味では建築費が安くても、泉町会館に軍配を挙げたくなるのです。このような建物に事務所を開設したいものです。

だんご伊勢屋●この商店街をめぐって気がつくのは、千葉でいうところの「三好野(みよしの)」が多いということ。みよしのとは、甘味喫茶のことで、赤飯、団子や稲荷ずし、氷いちごを出す店のことです。昔は食券制で手ごろな価格、フランクな雰囲気であることから中高年女性が愛用していたサテンですな。京都以西だと「力餅食堂」をイメージしてくれれば近いと思います(力餅食堂を研究したhpあり。検索エンジンででます)。
店頭にある氷いちごのサンプルは「脱脂綿」。そうそう、脱脂綿で昔は氷の雰囲気を現していたんだよな。テーブルの上には星座占いつきの銀の灰皿があったりして。
もうひとつ、関東では「福福まんぢう」という店も昭和50年代まではあちこちにあって、店頭のせいろが湯気をあげていましたが、平成の世の中になってからこっち、福福まんじうの店をみたことがありません(巣鴨にあるけどあれはテイクアウト専門)。
おそらくこの手の甘味どころというのは、和菓子の製造販売から、もちごめ→赤飯→いなり寿司→その他軽食 という感じで取り扱い品目を増やしていったのではないでしょうか。
三好野っては風流な名前です。銀座の立田野という甘味喫茶をもじったのでしょうか。和菓子屋業界では有名な商標なのでしょうか。そういえばこの写真の伊勢屋というのも、結構あちらこちらで見る餅菓子屋です。
 よーし、これからは「日本餅菓子屋の研究」をするぞ~。(ネットで検索したら苫小牧のツルマル百貨店前にふくふくまんじゅう屋さんがあることが判明。包装紙がアヤシイそうだ。誰か情報求む~)

松尾小児科●先日、東京原宿の竹下通りに2002年のファッションを観察に行ったんです。まあワタクシの知らない風俗や一生関りがないと思われる世界が展開されていたわけですが、竹下通りのまん中あたりに古くていい感じの歯医者があるんです。ここまで4色フルカラーてんこもりに発展している商店街で唯一モノクロの建物というたたずまい。その日は「本日休診」だったのですが、貼り紙にここにたむろするなとか、ものを置くなとか、常識的な注意書があることから、一本芯の通ったまっすぐな歯科医さんであることがわかります。
地方にいくと、この写真のような、木造やモルタルや石造りの医院・診療所を見かけます。千葉の県庁の近くにも木製の格子に白ペンキを塗った、「風立ちぬ」の世界のような医院がありました。
儲かると思われがちな開業医なのに、昭和戦前からの建物を改築しないというのは何か美学があるようで、腕前のほうも信用できそうな感じがします。
誰も信じてくれないのですが、ワタクシが住むさいたま市には、民家のような医院があります。構えはどこからみても医院なのですが、中身が家なのです。点滴するときは、台所や応接間を通って、6畳の部屋に入ります。押し入れの中で点滴を受けます。点滴ボトル(薬剤)をぶら下げるのは、クリーニング屋さんの針金ハンガーの廃物利用です。6畳間に5人くらいが並んで寝て点滴を受けています。ナースコールなんてものはありません。点滴が終わったらどうやって看護婦に教えるのでしょう。「これを鳴らしてください」看護婦さんがお盆をささげて持ってきたのは、小さな鈴。ジングルベルでした。不思議な空間でした。
そのうち、「木造医院写真集」なんてのを作りたいなと思っています。

偕楽園東門売店●公園の売店というのは、どういった権利関係なんでしょうか。なかなか簡単に店を出すことはできないんでしょうね。大きな寺社などでも江戸時代から境内に権利を持ったようなお土産屋さんが軒を並べていたりしますが、井之頭公園などでも住宅兼売店が建っております。それがまた、いい味なんですな~。ここ水戸偕楽園にも数軒の売店やお土産屋さんがレトロな感じで点在しています。公園売店建築なんてテーマが思わず浮かび上がってくるようなたたずまいでした。

ランチセット●さあ、これがこの水戸漫歩のメインエベントだ。ランチタイムの11時から14時まではランチタイムサービスという名前のメニューが頼めるのだ。その内容が、いままでに見たことがない組み合わせ。卵サンド、生パイン1/4、のり巻き餅(磯辺焼きのこと)、季節の果物(今回は梨1/4)。これに飲み物がついて600円。
店内に入ると、ハワイアンがBGMで流れ、観葉植物がそこここに。フルーツをつかったシルバー皿のメニューやパフェ類、ホットケーキもあるが、ここはどうしてもランチタイムメニューを頼みたい。でてきたものがこの写真。パインは切れ目がきちんと入っていて、デートの時でもさくっと食べられそう。サンドイッチは卵と野菜とポテトサラダ。卵サンドがこれまた手作り、家庭の味という感じで、業務用のフィリングなんかでは出せない味わいです。食パン2枚分を三角に4等分しているので、1つ1つが小さい。そのため、具を目一杯詰め込まないと、貧弱になってしまうので、たっぷりこんと、ハジのハジまで具が入っているというお得さ。チンという音がしたから磯辺巻きの餅はオーブンで焼いているようですが、もち米100パーセントのもちもち感。とうもろこし粉なんか入っていない。梨もシャリシャリしていてヘナチョコな食感ではありません。一つ一つの食材、調理法に目配りが整った、見て楽しい、食べておいしい逸品でした。偕楽園にお越しの際は適当なサテンに入るよりも、このランチタイムサービスという名前のメニューをオーダーしたい。わざわざ途中下車してもいいくらい。一押しです。

【了】:書きおろし


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    串間 努 -Tsutomu Kushima-
    昭和B級文化を記録したミニコミ雑誌『日曜研究家』が話題となり、執筆活動等マルチに活躍する昭和レトロ文化研究の第一人者。 現在もミニコミ誌『旅と趣味』『昭和レトロ学研究』を発行、精力的な大衆文化の記録・収集を続けている。

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