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「昭和のライフ」タイトル

アカデミア青木

第11回 東京湾釣り物語「アオギス」&「クロダイ」

 戦後、各地で盛んに海面の埋め立てが行われ、そこに建てられた新鋭工場やコンビナートは日本の高度成長の牽引車となった。だが、その一方で、この埋め立てによって国民的レジャーである「釣り」は様々な影響を被った。その例として、今回の昭和のライフでは、東京湾の埋め立てにより消滅した「アオギス釣り」と、逆にそれによって盛んになった「防波堤のクロダイ釣り」を取り上げる。

アオギス

アオギス

・消えたアオギス釣り

 アオギスはキス科の魚で、体長は40cm以上に育つ。春になると水の澄んだ干潟周辺に集まり、梅雨頃に産卵する。幼魚、親魚とも秋まで干潟周辺でゴカイ類などを食べるが、若魚は夏に川を遡るため、「川ギス」と呼ばれる。かつては東京湾を北限として、伊勢湾、紀ノ川河口、吉野川河口、別府湾、豊前海から瀬戸内海西部、鹿児島県吹上浜などに生息していた。味はシロギスに比べて若干落ちるが、魚体が大きく、引きが強烈なため、釣り人達の格好のターゲットになっていた。
 浦安から富津にかけての千葉県沿岸に遠浅の海が続いていた頃、毎年八十八夜を過ぎると、釣り客がアオギスを求めて湾岸に押し寄せた。東京湾における代表的な釣り方は「脚立釣り」と呼ばれる釣法で、船で干潟の沖合に出て脚立を立て、そこに腰掛けて延べ竿で釣るものだった。船宿を午前2時前後に出発、明け方に脚立を下ろして釣り始め、午後2時過ぎに引き揚げるのが通例で、脚立を下ろした船は少し離れた所から釣り客を監視し、一向に釣れずアオギス用の長い魚籠を海面に下ろせない客がいると、更に良いポイントへ脚立を動かしてくれたという。昭和37年当時の船代は、2人で2000円(木更津付近での料金。今の物価に換算すると約9400円)だった。また、お金を払いたくない人には、浜から海に入って立って釣る「立ち込み釣り」という釣法もあった。
昭和初期の脚立釣り

昭和初期の脚立釣り

 だが、昭和40年代以降工場用地を確保するため湾岸の埋め立てが一層進むと(図1 東京湾年代別埋立の推移)、生息地を失ってアオギスは姿を消した。同様に全国の他の生息地でも埋め立てが行われ、現在アオギスが見られる地域は、わずかに豊前海と鹿児島県吹上浜だけになってしまった。


・盛んになる防波堤のクロダイ釣り

 一方、アオギス釣りに代わって今日盛んになったのが、防波堤のクロダイ釣りである。クロダイは、タイ科の魚で全長は25〜50cm前後。関東では、幼魚を「チンチン」、若魚を「カイズ」といい、成魚を「クロダイ」という。生まれた時は雄で、成熟すると雌に性転換するという変わった特徴を持っている。主に岩場にいるカニやエビ、貝類などを食べるが、地方によってはスイカやミカン等も食べ、悪食家である。住みかは餌のある岩場や防波堤、河口の捨て石まわり。成魚は普段警戒心が強く、なかなか釣れないが、産卵期の3〜7月には荒食いをするので、この時期が一番釣りに適している。

クロダイ(カイズ)

クロダイ(カイズ)

 東京湾の防波堤のクロダイ釣りは、戦前、埋め立てが進み垂直の護岸や堤防が整備された京浜地区でまず始まった。この釣りの特徴は、短い竿を用い、ウキを使わず、針にカニや「イガイ(カラス貝)」と呼ばれる防波堤に着く黒い貝を付けて、堤防の壁面に沿って餌を自然に海中に落とし、クロダイに食べさせるというもので、「落とし込み釣り」といわれる。そして、この釣法は、戦後、千葉方面の埋め立てが進み、クロダイの生活圏が広がるつれて、東へと伝わった。
 千葉県側の東京湾でクロダイの代表的な釣り場といえば、「木更津沖堤」が上げられる。昭和40年代、アオギス釣りで有名だった青堀海岸(現、君津市内)が埋め立てられて、八幡製鐵(現、新日本製鐵)君津製鉄所が建設された。この製鉄所に出入りする大型船のために、海底を深く掘って航路が設けられたが、航路に泥砂が流入するのを防ぐ目的で、航路に沿って沖合に長大な防波堤が作られた。全長3650m、4つの堤防群から成るこの沖堤に、6月から10月にかけてクロダイ釣りの人々が押し掛ける。陸地から遮断されている沖堤への足は、渡し船。渡船料2500円を支払い、15分程船に揺られて堤防へと上がる。対象魚はクロダイに変わってしまったが、釣りのシステムはどこかアオギスの脚立釣りと似ている。

木更津沖堤での釣り風景 木更津沖堤での釣り風景

 時とともに変貌する東京湾と東京湾の釣り。今後更なる変化が起こるかも知れないが、魚も釣り人もたくましく順応していくことだろう。

[参考文献

『千葉県の保護上重要な野生生物−千葉県レッドデータブック−動物編』千葉県環境武自然保護課 平成12年

村上静人『釣魚秘伝全集6 青鱚・白鱚の釣り方』元光社 昭和8年

昭和37年5月4日付『朝日新聞』夕刊 5面

『東京湾−人と水のふれあいをめざして』国土庁大都市圏整備局 平成5年

豊田直之・西山徹・本間敏弘『釣り魚カラー図鑑』西東社 平成14年

橋龍二『まるごと堤防釣り』つり人社 平成8年]



2003年6月26日更新


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