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第三十回『芸能界情報月刊誌「平凡」と言えば、必見、若い性の悩み相談だった。』似顔絵


 最近は全く聞かないが、若い頃の僕たちは、極めて芸能情報通のヤツを「歩く平凡」と言ってはスターの噂話にアレコレよく騒いでいた。
 一九八七年十二月号を最後に廃刊となり売られていないが、僕が十代の頃の人気絶頂雑誌に「平凡」と言う芸能界話・写真満載の月刊誌があって、芸能情報通のヤツに雑誌名をくっつけ「歩く平凡」といった呼び方が流行ったのである。
 当時、その手の芸能情報雑誌はどちらかと言うと女の子が買う雑誌で、僕は、妹が毎月買っていた「平凡」を時々借りて見ていた。
 最近の女性週刊誌のように雑誌がジャンジャン売れるなら際疾いゴシップの塊でも何でもアリと言うわけではなく、スターの不倫や同棲は勿論、離婚もハウ・ツウ・セックスもキスさえも出てこない芸能界への憧れだけがギュッと凝縮されたような健全一筋青春芸能情報月刊誌であって、各月の表紙を飾った顔は、例えば、昭和三十五年七月号は浅丘ルリ子、昭和三十九年五月号は吉永小百合・三田明、昭和四十四年六月号はザ・タイガース・いしだあゆみ、そして、昭和四十九年十月号が山口百恵・西城秀樹・ルネ・シマールといった具合に、その時に一番人気・話題の女優や歌手、タレントだったのである。
 それは、丁度、僕など中高年の記憶の中で懐かしく輝く思わず涙腺キューンのロッテ歌のアルバム雑誌版といった感じで、スターの写真もテンコ盛り状態。そんな「平凡」と同じであの頃の十代から二十代の若者に人気を誇った芸能情報月刊誌「明星」があったが、二誌は、後年、若者から圧倒的な支持を受ける流行情報誌として登場するポパイとホットドッグや、女性ファッション雑誌アンアンとノンノの関係のようにライバル誌として芸能ファンの間で毎号比較され、お互い研究し合うのか実によく似ていて、人気スター特大ポスターやB六サイズ位の歌詞本が付録としてついていた。

 ある夏、平凡は、特別企画として歌詞本の中で使用する詞のイメージイラストを読者から賞金付きで一定期間募集していたことがあり、僕も応募の度に採用されて載った。原稿料として五百円が何回か現金書留で送金され、それはそれで田舎高校生にはチョットした自慢で凄く嬉しかったが、妹が買う「平凡」をなぜ僕がについては、実は、そんな企画とは別の理由があったのだ。
 それは、当時、大体どの雑誌にも思春期につきものである性の悩み相談の頁が必ずあったが「平凡」は特別で、愛知県春日井市に住む医者に直接手紙を送って性の悩み相談ができたのである。しかも無料で。
 勿論、医者であるから、男女のセックスに関する悩みでなくてならない。頁の余白の所に紫か紺色のインクで小さく縦書きされている医者の住所に手紙を出すと、質問・相談事に対する専門的な返事が本人宛に直接届くのである。

 セックスに無頓着と言うのではないが、実際に十六、七歳で経験の多い女性初体験も大学卒業直前という程の奥手の僕は、黙っていても股間爆発の十代後半も日々どこか悶々としながらセックス情報に疎い田舎生活を送っていたが、大学入学を期に家族から一人離れ学生アパー卜生活になると、当然周囲の同世代のセックス現況を見聞きすることになる。銭湯に皆で揃って出かけるような裸のつき合いも増え、そうなるとあの年頃独特の湯舟の縁での賑やかなナニの比較も起こり毛深いだのデカいだのとアレコレ比較される場合が多くなり、悶々生活の一方でセックスに関してどこか風任せ的で暢気だった僕も、セックス経験の違いを多少意識は勿論、どうも福チャンや総一チャン達と比べて自分のモノは小振りな気がするゾとそれこそ性の悩みの底なし沼にナニ一本チョボッと嵌ってしまった。
 チョボッとと言っても、包茎はセーフながら一応お決まりの思春期定番コースを一直線といった所で何となく気になり始め、ついに夏休み帰省前に決心。コッソリ書き写していた医者の住所宛に質問をアレコレ書いた手紙を送ったのである。
 ところがこの時、全国の読者からの悩み相談を受ける医者からの返事がそんなに早くは届くはずはないと考え住所を帰省先にしたのが大失敗。返事は、僕の帰省前に届いてしまった。そして、悩みを誰にも知られたくないという僕の思惑とは反対に一番最悪なケースである家族の回し読み状態に発展。
 と言うのも、当時、家族は、県外の大学に通う僕への手紙を開封してチェック、電話の際に内容を僕に知らせるような生活であったから当然と言えば当然の結末。
 最初に読んだ祖母は、日本人のペニスの平均は平常時は七〜八センチで勃起時は十一〜十二センチ、亀頭周囲幅は・・といった男性器略図が添えられた青焼きコピー二枚の手紙を読んで何となく内容見当はついたが、ペニス等聞き慣れない言葉から何かの病気に僕がと、母に見せたらしいのである。
 内容について十分理解できる母は、息子のセックスの悩みとなると話をするのは男親の方が適任と考え父に手紙を渡して相談。そうして、僕にとってはあの中学二年の冬のマスターベーション目撃され事件に匹敵する程恥ずかしいチン騒動となったのであった。
 早く届いた返事でそんな騒ぎが起きていることなど全然知らず、帰省列車時刻や日を知らせる電話をかけた所、「何か手紙が来とって、読んだゾ」と言う父の言葉。心臓ドキーンである。夕食に食べた五百八十円のハンバーグ定食の余韻も一気に吹き飛ぶ程の尻の穴の辺まで冷や汗タラーで、チビまる子ちゃん斜線的パニクリ状態のまま赤電話の前で立ち往生の僕に、一瞬間をおいてから「人は一人一人顔が違うように、背が低かったり高かったりチンポも大きい小さいとか色が他人より黒いとかはある。ワシが中学でバスケットをしていた頃に小柄な自分に随分悩んだのが歳をとると背が低いことなど全然関係なくなった。チンポの色や少々小さいことなど気にせんでもエェ」と父、キッパリ。
 が、気になっているのはチン長。身長ではコレ味噌と糞程違うわけで、それに父の場合は、小柄な体格ながらナニはけっこう立派なモノであることを見て知っているから、父に短小について語る資格はないと言い返したい気持ちのまま絶対絶命の十五分。僕の短小疑惑はその日以後、触れてはいけない迷宮入り事件のような最悪のパターンを辿ったのである。
 結局、悩みがバレただけで父の助言は何の慰めにもならず、医者に手紙を出したことを後悔しながら僕は帰省日だけを言って電話を切った。

 あの夏の赤電話から三十数年、「平凡」の話になる度に必ず性の悩み相談を思い出す僕であるが、傷口に塩を擦り込むような父の助言や、ペニスを上から見る場合と前から見る場合では視覚的にサイズが違って見えるといったコメントがデータの脇の白紙部分に万年筆文字で添えられていた医者の手紙で、ヘェーッそうなんだと簡単に解決するわけはなく、当然、短小疑惑と快楽の狭間でモッコリ悶々とする青春の日々をその後も過ごしたわけである。
 やがて大学も卒業、僕も年齢と共に<平凡>を見ることもなくなり、結婚してセックスするのが当たり前の日常になってと過ぎてゆく中、いつの間にか短小疑惑や色黒の悩みも諦め気分からか何となく有耶無耶になっていったのであるが、更年期障害世代になった今、年中股間は熱く日々悶々としながら永遠に続くように思えるセックスの快楽とそんな悩みに揺さぶられて過ごしていた十代の頃を思い出す時、決まって僕は、帰り来ぬ性旬の疼きが懐かしいとでも言うか、幽かに木々が揺れる静かな午後の公園に一人佇んでいるような寂しさを覚えて仕方がない。


2006年2月17日更新


第二十九回『中学生の頃は、東宝。それも<ゴジラ>ではなく、怪奇特撮映画の<マタンゴ>に大痺れ。』
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第二十四回『福チャンの告白。悶絶級・昭和パイプカット秘話。』
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第二十二回『僕の憧れ一九七二年の南極ワイフも、パックリ見せて十五万円也。』
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第十七回『欧陽菲菲と膀胱炎でヒーヒーの僕と、NHK受信契約騒ぎの日。』
第十六回『微妙にウタマロ、チン長十四センチのセックス満足度』
第十五回『コンドームと僕と、正常位』
第十四回『再会、また一つ。僕のテレビに懐かしの少年ジェットが来た。』
第十三回『ユーミンとセックスと鎌倉、僕の二十七歳の別れ。』
第十ニ回『シロクロ本番写真と五本の指』
第十一回『永遠のオナペット、渥美マリ』
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第八回『大阪スチャラカ物と言えば、てなもんや三度笠で決まり。』
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第四回『青春マスターベーション』
第三回『ワッチャンの超極太チンポ事件』
第二回『中高年男性、伝説のモッコリ。スーパージャイアンツ』
第一回『トランポリンな僕のこと、少し話しましょうか。』


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