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南陀楼綾繁

5月某日 六本木ニテ「缶詰」ニ感涙シ、有楽町ニテ「金大中」ニ戦(オノノ)ク事


 しばらくの間、六本木という街に行ってないコトにとつぜん気づく。定期的に六本木を訪れるホトンド唯一の理由だった〈WAVE〉六本木店が閉店したのは、1999年末だった。ひょっとしたら、その時からずっと行ってないんじゃないだろうか? とにかく、ぼくには縁遠い街である。

 久しぶりの六本木駅を降りて、目指すは〈青山ブックセンター〉。いまは表参道の本店に行ってばかりだが、数年前はABCと云えば六本木店に尽きると思っていた。入口から海外のデザイン雑誌が並び、奥には高価なデザイン専門書、さらに階段を数段昇ると、写真と音楽関係の本という基本的な構造はいまでも変わってない。目立った変化と云えば、コミックのコーナーが移動したぐらいか。小手先のリニューアルを繰り返してダメになっていく新刊書店が多いことを思えば、この店の変わらなさは称賛に値しよう(もちろん、細部では日々変化しているのだろうけど)。

缶詰ラベル博物館 奥のデザイン書売り場で、日本缶詰協会監修『缶詰ラベル博物館』(東方出版)を発見。B4判・1万2000円というデカくてタカい本だけど、魚、肉、果物などの缶詰ラベルが2331点も入っているという、紙モノ好きにはタマラナイ本なのだ。高価な本なのに、いくつかの大書店ではビニールパックしたままで並べていて、中が確認できなかった。サスガにココでは、パックが外されていたので、パラパラめくってみる。掲載点数が多いのは大正から昭和10年代の輸出缶詰用ラベル。ぜんざいや八ツ橋の缶詰(!)までがあるのに驚いた。監修の日本缶詰協会というのはオモシロイ団体で、以前にも『目で見る日本缶詰史』(1987)という本を出している。この本、じつは古書目録で注文して数日前に手に入れていたのだ。缶詰の歴史ってオモシロイ。なお、協会のホームページでも缶詰ラベルを何点か見ることができる(http://www.jca-can.or.jp/)。
開いた「缶詰ラベル博物館」

 店内を回り、黒川鍾信『神楽坂ホン書き旅館』(NHK出版、1700円)、毎日ムック・アミューズ編『書店の大活用術』2002年版(毎日新聞社、1429円)、町山智浩『アメリカ横断TVガイド』(洋泉社、1200円)、黒田硫黄〔茄子〕第2巻(講談社、524円)、加藤伸吉〔バカとゴッホ〕全2巻(講談社、各533円)と買い込む。そこを出たあと、数軒隣のビルに入っている〈あおい書店〉を覗き、二階のコミック売り場で、秋月りす〔OL進化論〕第19巻(講談社、514円)を買う。

 芋洗坂を麻布十番のほうに下る。下りきったあたり左側に、〈東京ランダムウォーク〉という書店がある(一階と地下)。一年ぐらい前にできたはずだが、ぼくははじめて来た。洋書販売のタトル商会がコレまでの神保町の店舗を大幅リニューアルし、それとともに六本木に新しい店をつくったのだ。あまり広い店ではないのだが、四方の壁を全部書棚にし、中央には背の低い棚を少しだけ置いて、空間を広く見せることに成功している。洋書店というとナンとなく敷居の高いカンジがしてしまうのだが、この店ではたとえばアメリカのミステリのペーパーバックのヨコにハヤカワ文庫の翻訳を置くというように、洋書と和書をうまく組み合わせて置いているので、つい洋書にも手が伸びてしまう。画集の棚をじっくり見て、VICTORIA E.BONNELL『ICONOGRAPHY OF POWER:SOVIET POLITICAL POSTER UNDER LENIN AND STALIN』(UNIVERSITY OF CALIFORNIA PRESS)と、STEPHEN WHITE『THE BOLSHEVIK POSTER』(YALE UNIVERSITY PRESS)の二冊を選ぶ。どちらもソ連のプロパガンダ・ポスターについての本。イイ図版がたくさん入っている。二冊で8000円ほど。人通りの多い場所とは云えないので、客がほとんどいない。コレで大丈夫かなァと思うけど、ゆっくり本が探せるのは嬉しい。この店は贔屓にしたい。サイトはこちら。http://www.bookshop.co.jp/

 かなり増えた荷物を持って、地下鉄で銀座に出る。有楽町の〈シネ・ラ・セット〉で次回のチケットを買う。まだ時間があるというので、いったん外に出て、向かいの中華料理屋〈中園亭〉に入る。有楽町近辺ではこの店しか知らないというぐらい、しょっちゅう来ている。駅の近くに来ると、条件反射的にこの店に寄りたくなってくるんだよねえ。ビールと焼きそばで、しばし読書。頃合を見て、映画館に戻る。今日観るのは阪本順治監督の〈KT〉(日韓合作)。KT1973年8月に東京で起こった金大中(キム・デジュン)の拉致事件を描いた作品。KCIAによって計画が深く静かに進められる描写が続く。派手なシーンはほとんどないと云ってもいいが、一シーンごとにピーンと緊迫した空気が張り詰めている。これぞサスペンス。布袋寅泰の音楽も無表情なカンジでイイ。主演の二人の男(佐藤浩市、キム・ガプス)もいいけど、ノンポリの在日韓国人を演じた筒井道隆がヨカッタ。帰りに受付で、この映画の原作である中薗英助(公開直前の4月9日に死去)『拉致 知られざる金大中事件』(新潮文庫、590円)を買い、電車の中で読みはじめる。脚本を書いた荒井晴彦は原作の骨格を崩さずに、あたらしい登場人物を何人か出したり、細部を変更することで、映画ならではのストーリーに仕立て直しているコトが判った。韓国では客がゼンゼン入らずに、一週間で打ち切りになったらしいが、それは韓国映画の文法とはまったく違う方向の作品だからだろう。少なくともぼくにはめちゃくちゃオモシロかった。

 ウチに帰ると、ナニやら大きな荷物が届いている。インディーズ・レーベルのオズ・ディスクが出した[はっぴいえんどかばあぼっくす]だ。はっぴいえんどコレはあの「はっぴいえんど」が残したアルバム5枚(ライブ含む)の曲順どおりに、一曲ずつ違うミュージシャンがカヴァーするという企画で、ライブはじっさいにライブを開いて収録している。ジャケットもオリジナルをイメージしながら描いてもらう(たとえば「ゆでめん」を川崎ゆきおが描くとか)という、およそ思いつきとしては愉快だが、誰もやらねーよそんなの、というのを、実現してしまったのだ。

 ぼくははっぴいえんどのヘビーなファンではないのだが、こういう手間の掛かった馬鹿馬鹿しい企画を見ると尊敬の念を抱いてしまうので、つい1万4000円(アウトテイク的な別売のライブCD込み)を振り込んでしまったのだ。参加しているミュージシャンは、聴いたことのあるのは少なくて、ほとんどが名前さえ初めて耳にするグループやヒトだった。だから、好みに合わないのも多いだろうと覚悟していたが、聴きはじめると意外なほどイイので驚いた。それも、はっぴいえんどのトリビュートというので原曲の模写で終わってしまうのではなく、拡大解釈したりぶっ壊したりねじくれた尊敬の念が笑えたりと、多彩多様なアプローチがされている。同時期にメジャーで出た[HAPPY END PARADE]に、とりあえず原曲の雰囲気を壊さずにまとめとけというカンジのカヴァーが多かったのとは正反対(まァ、細野、鈴木、松本といったオリジナルメンバーが参加してるんだから、そりゃやりにくいだろう)。とくに気に入ったのは、田中亜矢、ルケーチ、ブランあたりで、CDを買ったりライブに行きたくなったりした。トリビュートのオモシロさ、オリジナルと並べて博物館に保存されるような無難なものを聴くことではなく、耳になじんだ曲を通して新しいミュージシャンの魅力を発見することにあるのだ。その意味でも、このボックスは成功しているだろう。5枚聞き終えると、2時過ぎてしまった。

南陀楼綾繁からのお知らせ

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特集・あまカラ洋酒天国 
sumus戦後の食雑誌として異彩を放つ『あまカラ』と『洋酒天国』を軸として、食に関する古書を取り上げる特集です。南陀楼綾繁「池田文痴菴と森永製菓・前編―〈雑学〉と〈宣伝〉が熱かった時代」も掲載されています。
手に入る店は東京では、書肆アクセス(神保町)、リブロ(池袋店)、タコシェ(中野)ほか。南陀楼個人での通販も受け付けます(kawakami@honco.netまで)。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/5180/

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recoreco144冊を取り上げるブックガイドと、本に関するコラム、記事が満載の雑誌です。表紙はなぜか加藤あい。南陀楼綾繁は、「全点報告 この店で買った本」連載スタート&「本をめぐる本」ブックガイドを書きました。全国書店で発売中。
http://www.metalogue.co.jp/


2002年7月1日更新
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4月某日 徹夜明ケニテ池袋ヘ出、ツガヒ之生態ヲ観察スル事
4月某日 電脳機械ヲ購入スルモ気分高揚セザル事


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