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「蕩尽日録」タイトル


1月某日 異邦人ト共ニ正月ヲ出雲デ過シ、『砂ノ器』ノ舞台デ蕎麦ヲ喰フ事 南陀楼綾繁


 1月2日、飛行機で実家のある出雲市に帰る。いつもは旬公と二人で帰るのだが、今回は同行者がいる。アメリカ人のHくんだ。彼は社会学の研究のため日本に滞在していたが、このたび、アメリカに戻ることになった。「帰国する前に日本の田舎が見たい!」という希望を受けて、数日間、出雲で過ごしてもらうコトになったのだ。

 ウチに着くと、Hくんは、ぼくの親に流暢な日本語で話しかけた。外国人と接したことがなく、非常にナーバスになっていた彼らをたちまち篭絡してしまった。無口で知られる父親がHくんにはベラベラと喋りだすのを見て、さすがに優秀なフィールドワーカーだと感心する。

出雲大社

 初日は定番の出雲大社へ。車が渋滞し、2時間近くかかって到着。神社の裏にある山の頂上には、霞がかかって幽玄な雰囲気。「この本殿の屋根は『大社造り』といって、特殊なつくりかたをしている」と、大工の父親は(自分が建てたワケでもないのに)自慢げにHくんに解説する。境内はすごい人出で、おみくじを結ぶ大木にヒトが群がっている。そのあと、海に面した日御碕に行き、灯台に登って帰ってきた。

おみくじを結ぶ大木にヒト

 翌日は三人で、電車に乗ってお出かけ。宍道駅から木次線に入り、1両だけのワンマンカーに乗る。途中の駅で、何かの箱を大事そうに抱えた、小学三年生ぐらいの少年が乗ってくる。ホームにいる祖母らしき女性が、運転手に「○○で降りますので、よろしくお願いします」と頼んでいる。少年は緊張しているようで、姿勢を崩さず、じっと座っていた。

 12時すぎに亀嵩に到着。松本清張の小説で、映画化もされた『砂の器』の舞台である。ホームに降りると、周囲にはほとんど家がなく、ただひたすらにレールが続いていく風景がある。映画ではこのレールの向こうから、少年が駆けてくるシーンがあるのだ。

亀嵩

 改札を出ると、駅舎の半分が〈扇屋〉というそば屋になっている。駅長の杠(ゆずりは、と読む)さんが自らそばを打っているのだ。出雲そばといえば「割子そば」(小さな容器が重なっている)だが、寒いので、暖かい「釜揚げそば」を食べる。ゆでたそばがゆで汁と入っている。そば粉が多いので、汁はどろどろ。たっぷり汁を吸ったそばを、ズルズルと食べた。

 木次線は出雲坂根〜三井野原間をスイッチバックで登ることで知られており、このあと乗るつもりだったが、次の電車まであと3時間もある。映画の舞台になった亀嵩神社まで散歩しようとしたが、先達のぼくが方向を間違えてしまった。しかたなく次の駅に向かって歩く途中、迎えに来た両親の車に拾われる。車で三井野原まで行き、下りのスイッチバックに乗るという案が浮上し、そこまで送ってもらうが、残念、タッチの差で出発したところだった。駅前に小さなスキー場のある三井野原駅は無人で、プレハブみたいな駅舎のタイルが妙にファンシーなデザインだったのがおもしろかった。

三井野原駅

 そのあと、湯村温泉にある小さな公衆温泉に浸かって、ウチに帰る。晩飯のあとは、レンタルビデオで、映画《砂の器》(野村芳太郎監督、1974年)を全員で観る。

 その次の日は、出雲市内を散歩し、ぼくが中学・高校のときに、自転車で走り回ったあたりを案内した。Hくんは、何もない田舎町を充分満喫し、翌日、「青春18きっぷ」で京都に向かって旅立っていった。

 ふだんは実家に帰っても、どこに行くでもなく過ごしてしまうのだが、Hくんを案内したおかげで、久しぶりに地元のよさを味わうコトができた。ありがとう、Hくん。でも、旬公のハナシだと、キミの両親の家のあるテキサス州のラボックも、ココに劣らぬほど、ナンにもないらしい田舎町らしいじゃないか。今度はぼくが、「アメリカの田舎町」を求めて訪ねる番だよね。

『路上派遊書日記』

南陀楼綾繁の新刊
『路上派遊書日記』
(右文書院)
本体2200円+税

ある時は大量の古本を買い込み、ある時は安居酒屋にしけこみ常連客の話に聞き入る、またある時はイベントを主催し大いに盛り上がる……仕事と私事の間をあっちへふらふら、こっちへふらふらのナンダロウ的生活。ブログ「ナンダロウアヤシゲな日々」の2005年分から精選し、300項目の注釈を付す。[巻末対談]南陀楼綾繁×畠中理恵子(書肆アクセス)


2007年1月26日更新


12月某日 自転車デ目白・池袋・雑司ヶ谷ヲ回リ、「坂道ノ東京」ヲ確認スル事
11月某日 湯島デ明治ヲ思ヒ上野デ戦争ヲ思フ事
10月某日 秋晴レノ一日、飯能ノ街並ミヲ散策スル事
9月某日 下北沢デ音楽喫茶ニ出会ヒ、三十年前ノ街ト人ヲ想フ事
8月某日 七夕祭ノ日、酷暑ノ阿佐ヶ谷ヲ彷徨スル事
7月某日 有楽町ノ変貌ニ驚キ、銀座ノ百貨店デ古本ヲ売ル事
4月某日 金ナシ地位ナシ之誕生日ニ地元ノ古本屋ヲ回ル事
3月某日 関西ノ三都ヲ駆足デ巡リ「本棚ノアル店」デマドロム事
2月某日 池袋ノ「本すぽっと」ヲ周遊シ、〈新文芸座〉ニテ怪シゲナ人物ニ会フ事
1月某日 浅草ニテ往時ノ繁栄ヲ幻視シ古本市デ大物ヲ得ル事
12月某日 品川・馬込ノ古本屋ヲ散策シ、早稲田ノらいぶはうすニ至ル事
11月某日 神田錦町ノ名出版社ヲ偲ビ、定食ヲ喰フ事
10月某日 文化祭ノ中心デ「ホン、ホン、ホン」ト叫ブ事
9月某日 広尾デ古本、恵比寿デちぇこ映画、意外ナ組合セを楽シム事
8月某日 自転車ニテ出カケ、南千住デ「小松崎茂」ニ会フ事
10月某日 逗子カラ鎌倉マデ古本マミレノ小旅行ヲスル事
10月某日 北京カラノ賓客ト神保町古書店ヲ散歩スル事
9月某日 【海外篇】ばり島デモ本ノアル場所ヲ求メテ彷徨スル事
8月某日 千駄木ニテ「もくろークン大感謝祭」ヲ執リ行フ事
6月某日 本ノ街・神保町ノ「本丸」デ古本ヲ熱苦シク語ル事
5月某日 北千住カラ入谷マデ日比谷線沿ヒヲ飲ミ歩ク事
4月某日 経堂デ「本之工藝」ニ触レ、田端新町デ「モツ焼」ニ溺レル事
3月某日 渋谷ノ夜、音楽デ体ヲ埋メ尽ス事
2月某日 初心ニ戻リ神保町ヲ回遊スル事
1月某日 渋谷カラ三軒茶屋マデ「本尽クシ」ノ一日ヲ送ル事
12月某日 讃岐高松ニ飛ビ「ウドン」漬ノ三日ヲ過ス事
11月某日 びっぐさいとデ「表現欲」ニツイテ考エル事
11月某日 三鷹ノ古本屋ニテ奇妙ナ本ト出会フ事
10月某日 谷中ニテ芸術散歩ヲ愉シミ、浅草デ「えのけん」ヲ想フ事
9月某日 新宿デ革命ノ熱気ヲ感ジ高円寺デ戦後ヲ思フ事
8月某日 一駅一時間ノ旅ヲ志シ中板橋デ「ヘソ踊リ」ニ出会ウ事
6月某日 上野ノ森ニテじゃずヲ堪能シ鶯谷ニテほっぴーニ耽溺スル事
5月某日 谷中ノ「隠レ処」カラ出デテ千石ノ映画館ニ到ル事
2月某日 ばすニ乗リ池袋ヲ訪レテ日曜ノ街デ買物シマクル事
12月某日 荻窪及ビ西荻窪ヲ訪レテ此ノ街ノ面白ヲ再認識スル事
12月某日 大学図書館ノ書庫ニ潜リ早稲田古書街デ歓談スル事
12月某日 六本木カラ高円寺マデ本ヲ求メテ一日旅行スル事【後編】
12月某日 六本木カラ高円寺マデ本ヲ求メテ一日旅行スル事【前編】
11月某日 晩秋ノ銀座デ裏通ヲ歩キ昔ノ雑誌ニ読ミ耽ル事
11月某日 秋晴ノ鎌倉ヲ優雅ナ一日ヲ過スモ結局何時モ通リトナル事
9月某日 渋谷カラ表参道マデ御洒落ノ街ヲ本ヲ抱エテ長征スル事
9月某日 小淵沢ノ夢幻境ニ遊ビ甲府ノ古本屋ニ安堵スル事
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【後編】
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【中編】
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【前編】
7月某日 炎天下中ニ古書店ヲ巡リ、仏蘭西料理ニ舌鼓ヲ打ツ事
6月某日 W杯ノ喧騒ヲ避ケ、三ノ輪ノ路地ニ沈殿スル事
6月某日 昼ハ最高学府ニテみにこみノ販売法ヲ講ジ、夜ハ趣味話ニ相興ジル事
5月某日 六本木ニテ「缶詰」ニ感涙シ、有楽町ニテ「金大中」ニ戦(オノノ)ク事
4月某日 徹夜明ケニテ池袋ヘ出、ツガヒ之生態ヲ観察スル事
4月某日 電脳機械ヲ購入スルモ気分高揚セザル事


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