さえきあすか
その5 うさぎの筆筒の巻
1994年3月21日、京都・東寺の骨董市で、うさぎの筆筒を買いました。竹の形を真似た桐製で、高さが95ミリ。単にまるい筒型ではなく、3ケ所がひらべったく削ってあり、そこに杵をもった同じポーズのうさぎが彫られています。
子供の頃から机にジッと向かうこと、勉強が大の苦手だったくせに、どういうわけか机の上を飾ることが好きだった私は、当然のように昔の文房具に惹かれ、見つけた瞬間両手でつかんでいました。
そして一緒にまわっていた京都在住の文房具好きな友人に、「ステキでしょ!」と大自慢。「いいなぁ、どこにあったの?」という彼の言葉に、ニコニコしていたのです(同じことを彼にもやられるのでいいんです!)。
でも、8年も前のことなのに、よくおぼえているでしょ?
実は当時発行していたフリーペーパー『月刊魔法瓶』の中で紹介していたのでした。この『月刊魔法瓶 1994・夏 No.15』は忘れもしません。串間努さんと私の出会いを勝手に紹介した号でもあるのです。
そもそも『カリスマチャンネル』のメンバーは、鴻池綱孝さんを除いてミニコミ誌つながりです。つまり、各人がミニコミ誌をつくって販売している経歴の持ち主。串間努さんは『日曜研究家』、南陀楼綾繁さんは『物数奇』、今柊二さんは『畸人研究』、田端宏章さんは『萬』、私はテーマによってタイトルが違いますが、最初は『おこづかいは500円』という、500円以内で購入した昔のガラクタを紹介したミニコミ誌をつくっていました。
それが偶然にも同時期に知り合うことができたのです。つねづね思うことですが、モノとの出会いは縁、そして人との出会いも縁。ミニコミ誌をつくりはじめた時期に、似たことをやっている人たちと出会えたことは、私にとって親近感もさることながら、励みにもなりました。
そんな1994年の夏、当時は晴海で開催されていたコミックマーケットに、生まれてはじめて友人と行きました。照り返しの厳しいアスファルトの上で、暑さにフラフラになりながら(現にバタバタと人が倒れていました)、頭の中まで熱に冒されたようなカッカした状態の時に、『日曜研究家・創刊号』と出会ったのです。
発行人である串間努さんは、細くてメガネをかけた神経質そうな男性に見えました(実際は神経質ではありません)。どういうわけか私のことはまったく無視で、しきりに友人に「原稿を書きませんか?」と話しかけています。
けれど、『日曜研究家』を先に手にしたのは私です。それも3冊も買いました。いかにこの出会いが私にとって衝撃的であったか、わかってもらえるでしょう? なんで3冊も買ったかって? そんなの聞くだけ野暮です。収集癖がある私のこと、1冊は見るため、もう1冊は保存用です(残りの1冊は親しい骨董屋さんにプレゼントしました)。
初体験のコミックマーケットの感想はというと、私は大感激。だってみんなが一生懸命で、「手にとって見てください」と声をかけてくれ、買わなくても「ありがとうございました」とお礼をいってくれ、すがすがしいというか、気分がよいのです。その上終了時間になると、「本日のコミックマーケットは終了します」というアナウンスが流れ、会場にいる人たちの間に拍手がおこり、それぞれがつくったミニコミ誌、買ったミニコミ誌がいっせいに宙を舞うのです。この様子は何度見ても大好きです。
そんなコミックマーケットで感じたこと、『日曜研究家』との出会いを、『月刊魔法瓶』の中で紹介したのです。また、この新聞を入手して連絡をくれたのが、『萬』の編集者であり、『日本絶滅紀行』の田端宏章さんでした。
翌年、串間努さんを中心とした集いが新宿であり、そこで出会ったのが南陀楼綾繁さん。その日、新宿御苑の近くにある「模索舎」という書店で購入したのが、『畸人研究』。私にとっては、とても不思議な出会いです。
ちなみに鴻池綱孝さんはというと、ミニコミ誌こそつくっていませんが、好意的に販売してくださっているアンティーク・ショップ「エキスポ」のご主人です。私もミニコミ誌を発行するたびに、たいへんお世話になっていますし、いろいろなモノが鴻池さんのお店からやってきました。
こんな縁の深い人たちと、『カリスマチャンネル』で再び集うことができたのは嬉しいことでした。思えば、版下はワープロの切り貼り(気が向くと今でもやっていますが)、印刷はコピーのミニコミ誌からスタートした頃は、インターネットなんて想像もつきませんでした。電話線を使って原稿と写真(画像というのか)を送ることができ、カラーで簡単に紹介できるなんて。ずいぶんと便利になったもんです。
この8年間に周囲の状況は変わりました。でも、うさぎの筆筒は今も机の上にいます。うさぎが描かれたモノは、器でも着物でも大変人気があるのです。杵を持っていますから、月にいるうさぎを思って描かれたのでしょうか? 本来は筆を立てるモノですが、文字があまり美しくない左利きの私は、書道とは縁がないので、鉛筆立てに…と思いつつも、素材が桐で軽いので、あまり立てることもできず、コレクションのひとつとして飾っています。
2002年7月22日更新
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