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ページ制作者所有のヨーヨー
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串間努
第6回「ヨーヨー」の巻
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数年前、「ハイパーヨーヨー」(1997年・バンダイ)というのがブームになったことがあった。ヨーヨーのブームというのは昔にもあった。ボクが小学五・六年生だったから、昭和五十年頃だろう。コカ・コーラがアメリカンヨーヨーのキャンペーンをしたのだ。それまでのヨーヨーというのはヒモが中心に固定的に縛り付けられていて、手を離すとすぐに戻ってくる。決して下で空回転などしなかった。確かに昭和四十五年くらいに、バカでかいヨーヨーで空回転するものがあったけど、それは「マジックヨーヨー」と呼ばれるもので、どちらかというと「手品用品」に近かった。
そういう中でコカ・コーラのロゴがついた「ラッセルヨーヨー」には驚いた。このヨーヨーはヒモ(タコイトか?)が二重により合わせてある。思い切り下に投げると、ヒモが心棒に固定されていないから、伸び切った位置で空回転が起きる。空回転中の短い時間を利用して色々な芸をした後に、ちょん、と上に引っ張れば回転し続けていたヨーヨーはたちまち手元に戻るのだ。二百円くらいタイプはフチが白くて軽くて大きかった。三百五十円のはフチが透明で、手に馴染むように小振りでずっしりと重かった。別売りのヒモは五十円だったかな。ヒモが別売りなのは、何度も遊びこんでいると、摩擦熱でヒモが細く弱くなってしまうから、定期的に交換する必要があったのだ。下手すると切れて飛んでいってしまう。
ボクらのあいだではこの不思議なヨーヨーがたちまちブームとなった。
小学校の門の前に駄菓子屋兼文房具屋があった。その店にある日、赤いブレザーを着た外国人がやってきた。「たいへんだーたいへんだー外人が来たぞ!」という知らせがたちまち学校中を流れた。外人はラッセルヨーヨーの宣伝隊だった。宣伝隊のくせに一人しかいなかったけど。
彼はヨーヨーでいろいろな技を実演して、ボクらに本物の「ワザ」を教えてくれた。今のワザの名前は英語のようだが、当時は日本語だ。『犬の散歩』、『ブランコ』、『時計の振り子』。下に投下するのを失敗して横にぐるぐる回ってしまったのは、苦し紛れに『UFO』といった。外人はなかなかユーモアもある。「犬の散歩」をやっている途中で、股のあいだをめがけて急に糸を手前にひっぱり、ズボンのたるんだ布にからませ、「ワアォ犬にカマレタア!」と泣く真似をしてみせた。ボクらもこれを自分でやってみたが、失敗して金玉に当たったことがあるのでキケンだ。
投げたヨーヨーを背中に回しただけなのは、「番長サーン!」というワザだった。当時、不良というのは「番長」と呼ばれ、番長は「一澤帆布」のバックのような肩掛けカバンの、ヒモを長くたらして学校に通っていたのだ。どうして外人がそんな日本の細かい風習まで知っていたのか不思議だけど(デモンストレーターの日本人のなかには、1970年代に名古屋の光洋という会社がマジックヨーヨーを発売し、手品師に普及、それらの手品師の弟子たちがいたという説もある)。
あの手この手のワザを見せたあとは、簡単なコンテストをやって、ワッペンや黒い『チャンピオンヨーヨー』を賞品をくれた。大車輪と言う、ヨーヨーを前方にほうり投げ、手元に戻してはまた投げる。という単純な回転繰り返しワザを何回できるかを競うのだ。
ところが、この「マジックヨーヨー」、ボクは「ラッセルヨーヨー」が最初かと信じていたが、そうではなかったことが、なぎら健壱さんの「下町小僧」に明らかにされている。先輩の記憶をここに引用して、ボクの体験不足を補わしていただこうと思う。
「それまでのヨーヨーというと、糸の先がヨーヨーの軸に結ばれた、日本式のヨーヨーであり、ただ鼓形のコマを上下に移動するだけの物であった。
それがこのマジックヨーヨーの出現で、それまでのヨーヨーが大きく変わった。つまり糸を軸に固定させないで、軸に対して輪の状態にしてある。これがアメリカンヨーヨーである。
そのマジックヨーヨーは、森永乳業の『コーラス』という乳製飲料を買い、それに付いているマークを送ると、抽選であたった。『森永コーラスを飲んで、マジックヨーヨーを当てよう』がキャッチフレーズであった。昭和三八年のことである」
昭和三十八年といったら、ボクが生まれた年である。コーラスのヨーヨーキャンペーンは後日、広告で知っていたが、それがマジックヨーヨーだったとは……。
しかも文献を探すと、ヨーヨーのワザに「犬の散歩」などがすでに戦前からあったことが記されている。犬の散歩は、糸が心棒に固定されていては決してできないワザだからこの時すでに、空回転が起きるマジックヨーヨーが存在したと思われる。
◆ヨーヨーの歴史
「最後にヨーヨースポーツの二三の種類を列記す。
一 犬の散歩
二 エレベーター
三 抜けて踊る
四 鯉の瀧登り
五 世界一周
六 うぐいすの谷渡り
七 三葉のクローバー
八 八の字 等々」(雑誌「セルパン」所収「ヨーヨーの起源」昭和八年より)
さて、いままで、「アメリカンヨーヨー」といってきたが、もともとはイギリス生まれである。
ヨーヨーの原形はフランス革命(一七八九年)のころからあり、全世界に流行していたという。
ところが、日本では、フランス革命に先立つ一七二○年頃に、大阪の絵師が「小手車売」という、ヨーヨーの行商人を描写しているという。日本風俗図絵の第二巻にも「手車の翁」と題してヨーヨーが掲載されている。近世畸人伝第三巻には「享保のはじめ手車というものを売りありく翁あり。糸をまわして、是はだがのじゃと言えば、これはあれのじゃと応えて、童ら買いてもてあそべり……」とあり、この「小手車」「手車」が、商品化して、「お蝶殿の手車」となり、子供たちの間では、「蝶々」という略称で呼ぶようになった。この「チョーチョー」が、オランダ人の手を経て、JOO│JOOという名前で、ヨーロッパに輸出され、「ヨーヨー」の名前の起源が日本にあるという説があると、前出の雑誌「セルパン」は「ヨーヨーの起源」と題して伝えている。
日本が国際連盟を脱退した昭和八年は、国内でヨーヨーが大流行した年で、中央公論の昭和八年四月号で作家の高田保は「ヨーヨー時代」文中で、「昭和七年夏から翌年にかけてヨウヨウと呼ぶ玩具を売る小娘の姿を見ぬ事はなかった」と書いている。
フランスから流行が飛び火し、日本でも国産ヨーヨーは足柄村で作られていたという。
「ヨーヨーといふものが、こんな訳で流行り出したので、真似をする事と商売に抜け目のない御連中が一つ三円もする舶来に刺激されて、ここぞとばかりに馬力をかけて、各玩具屋さんが我も我もと外国輸出玩具などはそっちのけにして、まかり間違えば、このヨーヨーを逆に輸出してやらうの勢いで、正に昼夜兼行で一個十銭位のこのヨーヨー製造に取りかかってゐる。東京近傍では小田原在の足柄村が多く、この辺は小工場でも一日に三千個位を作りあげ、足柄村で約十軒の工場から毎日三万個が送り出される。」(朝日新聞社刊『アサヒグラフ』昭和八年三月八日号)
なお昭和八年の雑誌『集古』に収録された三村清三郎「ヨーヨー」によれば、昭和七年には大阪では既にヨーヨーブームは去り、東京では昭和八年にもまだ盛んだったことがわかる。西から東に流行が来たということは、神戸あたりにフランス帰りの洋行者が伝えたのだろうか。
「大阪あたりで去年すでに廃りたりというヨーヨーは、今年に入りての東京は、所謂ヨーヨー時代をうつし出し、去る三月二十九日東京放送の子供時間に、ヨーヨー姫という童話劇ありき、その唄に「ヨーヨーする者寄っといで、誰でも彼でも見ておくれ、糸をたぐって引き寄せる、トンボ返りを見ておくれ」「ヨーヨーする者寄っといで、誰でも彼でも見ておくれ、上り下りのエレベーター、さあさあ皆さん乗っとくれ」「ヨーヨーする者寄っといで、誰でも彼でも見ておくれ、もう日が暮れるよ帰ろうよ、明日も揃って見ておくれ」とある。また露天商人の下げているポスターには実用新案特許第何号と書き、千代田木工株式会社など、記してある。五月人形の金太郎さんもヨーヨーをやっているのが出て、金属性のお菓子入れも現われ、果ては日本ヨーヨー競技研究会編の「ヨーヨーの競技と遊び方」といえる指南書まで発売されるに至りぬ。その内には手車の翁の銅像でも建築して一儲けしようという利口な人も出つるなるべし」
なお縁日で売っている小風船に水をいれた玩具も、上下運動する様がヨーヨーに似ていることから、「水ヨーヨー」と呼ばれているが、斉藤良輔は「おもちゃの話」の中で、「裏長屋の貧しい子ども相手の駄菓子屋などでは、十銭のヨーヨーが買えない小さな客たちが、ゴム風船に水を入れ、ゴム紐をつけたものを一銭で買って、これも「ヨーヨー」とよんで路地で流行させる風景もみられた」と書いているから、ヨーヨーの代用品として発祥したらしい。
しかし、偶然発見っした実用新案に、この「水ヨーヨー」のルーツらしきものがある。昭和四年に出願された実用新案「蜜ボール」というのは、ゴムの袋に蜜や子どもが好みそうな液を入れ、その口をゴムヒモで閉じ、ヒモの末端には輪をつけておくものだった。この輪を指に付けて、上下運動させれば、「児童の玩具となり、また玩具として厭きたときは袋の中味を喫す実用品」とされている。これが「水ヨーヨー」でなくしてなんであろうか。目ざとい人が「別にジュースを入れなくても、水だけでも面白いじゃん」と考えたに違いない。
●いろんなものをくっつけて改稿したのでオリジナル
2003年4月3日更新
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第5回「ママレンジ」の巻
第4回「ルービックキューブ」の巻
第3回「ガチャガチャ」の巻
第2回「軍人将棋は20世紀のリリック」の巻
第1回「昆虫採集セットはなんでなくなったんでしょ」の巻
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