第4回 青梅商店街の巻・その1

博物館の看板青梅の商店街。江戸時代に奥多摩の石灰を江戸城に運ぶために出来た青梅街道に面する商店たちは、戦前に建築された古いたたずまいのまま21世紀も商いを続けている。

この街は非常に『ユルイ』街である。青梅駅の前は都会の喧騒とは無縁だ。牛丼やビデオ屋の赤や黄色のチェーン店の看板が目立つこともない、茶色い、煮しめのようなカラーリングの街。時間はゆっくりと流れていて千代田区が17時なのにまだ青梅では15時だ(ウソ)。おおらかな店主が多いせいかお店に入っても「商売人にモノを買わされた、してやられた~」ということがない。

人がおおらかで、街全体の雰囲気が『癒し系』のまったりとした空気に包まれているのは歴史の必然か。江戸時代、『青梅宿』と呼ばれ、宿場町としても栄えた青梅は、戦前は繊維産業で栄えた街で、機織り機械が1回、ガチャンと動くと1万円を産み出したということから「ガチャマン」という言葉が残っている。1ガチャ1万円。そんな単位ははじめて聞いたが、昔の栄光いまいずこ。古くからこの地元で商売をしている人が多いのでコセコセしていないのだ。

商店街の建物たちは時間が完璧に止まっているものばかり。戦前から続く店がほとんどで、金看板を挙げたお店(たな)まであるぞ。「ショップマスター」なんてどこを探してもいないし似合わない。そんな大人(たいじん)の風格のある商店街の町並みに、お宝拝見とばかりに探検取材に出てみたぞ。いったい何が見つかるだろうか。さあ、レッツゴー!


●路地を通って、駅前とその裏へ

ラーメン屋のショーウインドウ チキンライス

元ビリヤード場

レトロ商品博物館の前を通る大通りが旧青梅街道。ここをスタスタと渡り、持ち帰り寿司屋の路地を入る。一方通行の永山公園通りだ。このあたりは写真館と美容室とすし屋がやたらと多い。ラーメン屋にもにぎり寿司がメニューにあるほどだ。角にあるすし屋さんを左折。そば屋さんを過ぎ、うなぎ屋さんを過ぎと、観光老夫婦が喜びそうな和食中心の道を進むと、またまたうなぎと天ぷらの店の前に出た。この店の前には木造トタン屋根の元ビリヤード場があり、赤と白のシールが水玉のように窓ガラスに張ってある。だけど残念ながらもう営業していない。せつないね。

豆腐店この奥その路地を通り右折すると突き当たりにお豆腐屋さんがある。地元ではよく売れる店として評判の店だ。
そこから路地を通ると仲通りに出る。『仲通りで仲直り』というサイケディックな看板も注目だ。おやじギャグ炸裂の看板前で記念写真を撮りましょう。仲通りには懐かしの歌声スナックがある。西多摩地区で初めてできたスナックだという。昔懐かしの曲がたくさんあるという。

スナックの看板 スナック

対面の肉屋さんには自家製のギョーザ・シューマイ・コロッケが売っていて、なんと『焼肉のたれ300円』まで手作り商品として売っているではないか。

店 八百屋

肉屋の先にあるお茶屋さんはおばあさんがやっていてアットホームな雰囲気。今日は「市民会館にでかけています」というはり紙があって留守。律義に行き先まで書くのが年配者らしい配慮。となりの歯科はウサギが人参をかじっている看板。ユルイ。仲通りを出て、駅前通りを横断すると福岡産の「ひしの実」や熊本産の「栗」を売っている八百屋がある。ひしの実は桑の実に似たナッツだ。その先の花屋さんの奥さんはアメリカに花のデザインを勉強にいったかた。「ウチはもともと生産者なんです。戦前はお花を菰で包み、大八車に積んで甲州街道を通って浅草橋の花市場に持っていたそうですよ」

医院

花屋さんをあとにしてラーメン屋の角を左折すると、七兵衛通りに出る。七兵衛が誰かはわからん。左手の医院は医師の名前が2つつながった珍しいネーミング。隣には庭にシュロが七本植わっている。素敵なモルタル造りの自宅があるが、ここがもとの医院だそうだ。その並びには入り口がオレンジで、店全体がカーテンで隠されている不思議な喫茶店。

天ぷら屋 天ぷら屋

ちょいと歩くと、檀一雄や佐藤春夫も通った名店の天ぷら屋もある(天丼800円)。いつも観光客でいっぱい。この天ぷら屋で七兵衛通りは一応オシマイ。右にいけば図書館しかないので、左へ曲がることにする。

古い家 日本そば屋

少しあるいて右へいくとまた七兵衛通りが始まる。手打ち一筋50年の日本そば屋があり、にしんそばがオススメだ。ご主人が京都は南座の松葉という名店で修業してきた味だ。「白い粉を使う更級系とは反対で、ひきぐるみというまっくろな純内国産石臼田舎粉を使っています」そば屋の対面が木造のイイ感じの美容室。ユルイ。寿司屋を経由して路地を通ると旧青梅街道に出てしまった。

美容室

(続く)


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Author


    串間 努 -Tsutomu Kushima-
    昭和B級文化を記録したミニコミ雑誌『日曜研究家』が話題となり、執筆活動等マルチに活躍する昭和レトロ文化研究の第一人者。 現在もミニコミ誌『旅と趣味』『昭和レトロ学研究』を発行、精力的な大衆文化の記録・収集を続けている。

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