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「蕩尽日録」タイトル

柳原良平のイラスト  

11月某日 三鷹ノ古本屋ニテ
奇妙ナ本ト出会フ事

南陀楼綾繁



 このトコロ寒い日が続いてこのまま冬に入るのかと思われたが、今日は秋晴れのいい天気。夕方からは仕事があるが、その前にどっか行かなきゃ収まらない。行ってみたい場所はある。知り合いが三鷹で古本屋を開店したというのだ。ちょうどイイ、出かけるか。

 新宿から中央線に乗り換える。休日なので高円寺も阿佐ヶ谷も通り越して、たちまち三鷹に到着。吉祥寺まではときどき来るが、三鷹は用事がないとナカナカ降りない。今日来たのも一年ぶりぐらいになるか。

 南口を出て、商店街をひたすら南へ。今日は歩行者天国で車道が歩けるが、みんな何を遠慮してるのか歩道を歩いていて、真ん中はがら空き。商店街も歩行者天国だからと出店を出すわけでもなく、殺風景この上ない。そのまま歩行者天国の区域を通り過ぎて、普通の車道に出たことを気づかずに、車にはねられそうになった。だって、ゼンゼン変わってないんだもん。いつも思うのだが、「歩行者天国」を名乗るなら、それらしく盛り上げる努力をしたらどうか。自分たちでできなきゃ、路上での販売や演奏を許可するとかして、そのエリアにいて時間がツブせるようにしなけりゃナンにもならない。

 退屈な通りを五分ほど歩き、NTTの斜め前に目的の古本屋を発見。店名は〈上々堂〉。しゃんしゃんどう、と読む。つい二日前に開店したばかりである。大きな扉(引いて開けるのかヨコに開けるのか迷ってしまう)の向こうに、かなり広い空間があった。手前と左側には腰の高さのパネルがあり、文庫や絵本、雑誌の表紙を見せて置いてある。そして奥には背の高い本棚。本のビジュアルを見るのも、とにかくたくさん本が詰まっているのを見るのも好きだというぼくにとっては、ベストのバランスだ。気に入った。壁際にはライターの岡崎武志さんが自分で値段をつけて本を出している「岡崎武志堂」コーナーもあった。

〈上々堂〉

 奥の大きな机に座っている長谷川洋子さんに挨拶。長谷川さんは鳥取市生まれ、東京、米子、大阪、出雲に住んだあと、古本屋をやりたい! と動き回った結果、西荻の古本屋〈興居島屋〉(ゴゴシマヤ)の石丸さんとの共同経営というカタチで〈上々堂〉をオープンさせたのだ。長谷川さんとはしばらく前からメールをやりとりしていたが、まさか、ホントに古本屋を持ってしまうとは思いも掛けなかった。スゴイ行動力だ。

 いろいろ話したいコトもあるが、お客さん(若い女性が多い)もいるし、ナニよりもぼく自身がまず棚を見たい。話もそこそこに棚を見始める。そして買ったのは……。まず、野口冨士男『なぎの葉考』(文藝春秋)がなんと100円(カバーなし)。つげ義春のイラストが嬉しい荒川洋治の『ボクのマンスリー・ショック』(新潮文庫)が400円。タイトルが笑える秋山安三郎『随筆ひざ小僧』(雪華社)が300円。案外見かけたことのない吉田精一『随筆入門 鑑賞と書き方』(河出書房新社)が500円。津本陽『大谷光瑞の生涯』(角川文庫)が400円。最近亡くなった倉本四郎の書評集『恋情は思い余って器官にむかう』(筑摩書房)が800円と、これなら買っておきたい手頃なお値段。

 そして、高いけどどうしても欲しいのが、岡澤貞行『日々是趣味のひと』(荻生書房)。斎藤昌三に師事し、収書家として知られた人。生前のエッセイと追悼文を一冊にまとめた本。見返しには本人が集めていた鉄道の切符が、本扉には武井武雄作の蔵書票が貼り込まれている。これなら4000円は高くないかも。もう一冊は、野坂昭如の初期の著書が並んでいるコーナーから、『現代野郎入門 これがプレイ・ボーイだ!』(久保書店)を2000円で。この本、たしかデビュー作だよねェ。柳原良平のイラスト、装丁も楽しい。

『現代野郎入門 これがプレイ・ボーイだ!』

 しかし、本日最高の拾いモノは、キダ・タロー『コーヒーの店−大阪−』(カラーブックス)が250円で買えたこと。あのカラーブックスから「浪速のモーツァルト」がこんな本を出していたとは、不勉強でゼンゼン知らなかった。ちょうど20年前の1983年に出ている。150店ほどの喫茶店の写真とキダ・タローのコメント(オール関西弁)を載せている。こんな具合だ。

「三十秒で七個のおはぎを食べ、腹こわして虫歯になった男がおる、ゆうて先日みんなで大笑いしたんですが、その男がプランタンの店長やったんです。北原準司というんですが、一体なにを考えとりまんねやろナ! しかし、朝晩二回、四年越しの常連客もいらっしゃるそうですから、彼、店のほうはちゃんとやっとるようです」

 まったく店の紹介になっていないトコロがスゴイ。でも、いまもこの「プランタン」があるのなら、ちょっと行ってみたくなる。

『コーヒーの店−大阪−』

 合計9冊買って袋に入れてもらうと、ちぎれそうに重いが、そのあと〈げんせん館〉にも寄って文庫を3冊買う。キダ・タローのコーヒー本を読んだせいか、〈ふれんど〉という喫茶店にふらふらと入り、ケーキセットを頼む。飲み終わって、三鷹駅に向かって歩くと、左側にボロボロの廃屋発見。周囲が小綺麗なマンションばかりなので、ものすごく目立つ。壁に貼ってある「キリスト以外に神はいない 聖書」というコトバが、これまたものすごく重いなァ。そろそろ悔い改めて、仕事場に行くか。

ボロボロの廃屋

*上々堂  三鷹市下連雀4-17-5  TEL 0422-46-2393


2003年12月9日更新
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