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「ゴールド芯」 第13回
「ゴールド芯のひみつ」の巻

「雑貨店」タイトル

日曜研究家串間努



学用品に「金と銀」が導入された

 高級感や付加価値を高める時のネーミングに「ゴールド」を使うことが多い。「ゴールデンアワー」「ユンケルゴールド」「明治ゴールド牛乳」「ゴールデンハーフ」……。ゴールドを冠すると『ウルトラスーパーハイデラックス』的なイメージを与えられる。余談だが、この手の修飾言葉で一番手軽なのが「ニュー」。スーパーマーケットで一日でも日付が新しい牛乳や豆腐を奥から引っ張り出して買うような日本人は「ニュー」にも弱いのだ。
 さて、日本人がメタリックなヒカリモノを好むのはナゼなのか。子どもの世界でも、折り紙時代から『金と銀』は貴重なものとしてもてはやされてきた。
 洗濯洗剤の『ブルーダイヤ』(ライオン)が「金銀パールプレゼント」をしていたころ小学校に上がった私は、描画材としてまずクレヨンや色鉛筆にお目にかかった。だが普通の「一二色セット」には金銀は入っていない。親にねだってもなかなか買ってもらえない「二四色」だの「三六色」のセットだけに金と銀が入っていた。親の言い分は「一二色で充分だ。なぜ金色がいるのか」。よくよく考えると金や銀色が必要なときが思いつかず、反論できずに黙ってしまうしかないのであった。
 描画材に盛んに金や銀が使われるようになったのは昭和三〇年代に入ってのことで、昭和三〇年に、文具メーカーのあおいとり本舗が「手提附木函の27色(金銀入り)あおいとりパス」を発売したのが元祖のようだ。翌年からクレヨン・パスメーカー各社から挙って金銀入りが出たが、当時の有力ブランド王様商会の甲斐惟隆社長は「クレパスに金銀色は必要だ。王様クレイヨンには戦前から金銀色が入っていて……」と業界紙にコメントをしているので、戦前にも一時、金銀入りが存在していた模様である(しかし記録として確認していないことと、戦前に金銀色が児童間に普及していたとの実感を持っていないため、昭和三〇年代より広まったと認識した)。
 絵の具では、みさくら堂の「みさくらペイント金銀入15色」というのが初めてで、やはり昭和三一年の発売である。この年から一斉に金銀入りが発売されたのは、中島金属箔粉工業株式会社が「クレヨン・絵具用金銀粉」という原料を発売したためではないかと思われる。新しい素材や原料が、開発、上市されることによって、一般消費者向けの製品の開発もまた、進むのだ。

「ゴールド芯」

 昭和三二年にはコーリン鉛筆本舗が「金銀入り24色色鉛筆筆函入」を発売し、これでクレヨン・絵の具・色鉛筆とすべての児童用描画材で金銀が出揃った。
 昔は「そうめん」の中に数本だけ赤とか青が入っていてそれに当たると嬉しかったものだが、金銀の描画材にもそんな希少価値を感じていた。現在の子どもも金銀に喜びを見ているのだろうか。

「ゴールド芯」

君は『ゴールド芯』を知っているか

 今ではシャープペンシルは百円で買えるけれど、私が小学校に入った昭和四十年代は、最低でも五百円。「鉛筆があるじゃないの」といわれて買って貰えない。昔の親は子どもの要求への断りかたがうまい。グーの音も出すことができない。
 一年生の時に隣の席のOくんが持ってきたシャーペンをいじり壊してしまった時がある。真っ青になったOくんから「絶対ベンショーしろよー」と迫られた。ことの重大さにビビった私は親にお金を貰って弁償した。ところがそれを知ったOくんの親はO君に「返してきなさい」といい、素直に持ってきたOくんだったが、私も親に事情を話してあるから「もらえないよ」と断った。親からは返せと言われる。私には受け取ってもらえない。板挟みになったOくんは、そのお金で新しいシャーペンを買って私によこした。つまり私は同級生のシャーペンを壊したことで、回りまわって念願のシャープペンシルを手に入れたことになる。うれしー。

「ゴールド芯」

 いつだったか、クラスのだれかがスバラシイ文房具を買ってきた。金色に輝く、シャーペンの芯「ゴールド芯」である。私らはこれを見て驚き、「この芯は五百円のシャーペンではなく、千円のシャーペンに入れる芯ではないか」と納得しあった。だが、当然のことだけど五百円のシャーペンに入れても使えるのである。うわああああすごい。しかも入れ物も垢抜けていた。角柱のなかに円柱が入っており、クリスタル感あふれる高級ケースなのだ。それまで使っていたP社のひし形(ダイヤモンドというよりひし型)の、ベージュの容器が色褪せてみえた。買ってきた子はクラスメイトにせがまれるままに、1本1本おごそかにくれてやっていた。私は一生のうち、あれほど、シャーペンの芯を折れないよう慎重に自分のペンに移し変えたことはない。細い芯を細い内筒に入れるものだから緊張のあまり指がプルプルプルと震えた。
  『金色』はとても価値ある色だ。金と銀の折り紙は、最後まで使えなかったし、クレヨンで『きんいろ』入りの三十色を持っている子はスターだった。使うものじゃなくて、ただながめるもの。まるでドロップの缶に数個しか入っていないチョコレート味を惜しんでなめるように、大切にしたものだ。
 実はコーリン鉛筆という会社はもうない。
 「ゴールド芯」を開発したコーリン鉛筆の関係者を探しだした。日本文化用品安全試験所のMさんという方である。
「昭和四十七、八年頃発売したのですが、良くうれました。三十本で二百円です。透明な樹脂のケースに入れたのも初めてですが、三十本入りというのも初めてなんですよ。シャープの芯を差し替えるとき、手が黒く汚れますから、それを防ぐために芯の周りに何かをかぶせたらどうだろうというのがきっかけです」
 なるほど、手を汚さないためだったとは。決して豪華な芯を作ろうとしたワケではなかったことは次のことばからもわかる。
「赤や青の塗料だと表面がカチカチになってしまって字が書けないんですね。書いているうちにポロポロ崩れるものでないと。そこで金属の粉を塗ったのです」
 のちに自動機械化されるが、最初のころは手で粉を吹き付けていたので、マスクをしていても顔中が金粉だらけで、舞踏家のようになったそうだ。ユーザーが手を汚さない芯を作るために、製造者の顔は汚れてしまったとは!
 「ゴールドできれいということと、手が黒くならない点でヒットしたのでしょう」
 もういちど発売したら、また売れるのではと私は思う。
 ラメですかね?
  (一応いっておきますが、駄洒落入ってます)

毎日小学生新聞に加筆


2004年1月19日更新
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