今柊二
「未来少年コナンとガレージキット」
現在、スタジオジブリ、そして宮崎駿と言えば、大ヒット作を次々と送り出しつづける日本だけではなく世界的な映画界の巨人なのだが、我々60年代後半生まれの世代にとっては、宮崎と言えば何はさておき「未来少年コナン」だ。
このアニメーションは1978年4月4日からNHKで毎週火曜日の19時30分から放映されていた。時代的には、このエッセイで前述したように、世界がいったん終わった後の物語の一つだ。具体的にストーリーを少し記すと、最終戦争で超磁力兵器によって地球は大地がねじ曲がり、陸地のほとんどは海に没してしまう。そんな変わり果てた世界のなか、科学文明を守って暮らしている人々と、自然に従って生きている人たちがいた。
そんな世界のなかて、自然児コナンは、少女ラナを救うべく大活躍をする……荒廃した未来社会を描いたという意味では、「猿の軍団」や「宇宙戦艦ヤマト」と同じ系統なのだが、それらと大きく違ったのはコナンの超人的な活躍ぶりであり、彼が少年であることだった。
つまり「猿の軍団」や「ヤマト」より、こどもにとってはさらに感情移入がしやすかったのだった。そして描かれているコナンの世界は実に魅力に満ち満ちていた。科学を守る人たちの暮らすインダストリアの三角塔、地下でしいたげられた人ぴと、ダイス船長の操る搭乗ロボット(ロボノイド)などだ。特に灰色にくすむインダストリアは実にステキだった。
私の住んでいた愛媛県の今治というところは、市内の真ん中に、丹下健三がこしらえた高層の市庁舎がそびえていて、町を見下していた。高層とはいっても10階そこそこだったが、田舎の都市には実に不釣合いないばった建物で、彼が後に新宿にぶっ建てた都庁の練習とでも言えるかも知れない。また、港には、実に巨大なアサノセメント(当時)のセメントをためておく円柱状の建物があり、これまた三角塔的な建物だった。
つまりは、コナンに出てくるインダストリアの町には、強い共感を持って見ることができたのだった。さらに私は子供のときから妄想過多だったために、よく市庁舎を見つつ、「あの塔にはレプカのような役人がいるに違いない」とかアサノセメントを見ては「地下にはプラスチックが原材料のパン工場が……」などと勝手なことばかり考えていた。
当然そのように妄想を加速させるためにも、コナンの活躍を追うためにも、当然毎回「コナン」は見なければならない。当時はビデオなどあるわけないから、一回一回内容を脳髄にたたき込むための真剣勝負だった。時折障害が入るが、それをなんとかクリアするのがまた至難の技だった。おやじが野球を見たがったり、弟が裏番組の「ぴったしカンカン」(久米宏司会のクイズ番組。この番組の人気も高く、コナンも影響を受けたらしい)を見せろといった程度ならなんとかごまかしはきいたが、どうしてもダメなときもあった。
ある夜居間でテレビの前に座り、コナンのテーマソングが流れてさあ始まろうとしたとき、店の方から(私の実家は商売をやっている)おやじが「おまえにお客さんだ」という。後髪を10万本くらいひかれつつ店に出てみると、73わけの背広姿の若い男が立っていた。その男は人の顔を見るなり「勉強はちゃんとやっていますか?」という。今はどうか知らないが、昔はこの一言は小学生のエネルギーを低下させるのに最も有効な呪文だった。私が「ええと……」と言葉を濁していると、「実は勉強をしっかりとできるプリントがあるのです」という。
つまり何の事はない、教材の押し売りだったのである。おやじは客がきてしまったため、私の方に注目してくれないし、確か母親は用事でいなかった。「勉強」の呪文に縛られた私は静かにセールスマンのトークを拝聴せざるを得なかった。かくしてこの男はプリントの効能をえんえんしゃべった後、無料おためしプリント(実にくだらない計算ドリルだった)を数枚おいて、去っていった。急いでテレビの前に戻ると、もはやとっくにコナンは終わっていたのだった。
いや、このときほどくやしいことはなかった。しかし、この後の人生において、しばらくの間「勉強」なり「受験」が私のおたくエネルギーの暴走、いや快走の足留めを行なうイヤーな存在として君臨しつづけるのだった。大人になって「勉強」の呪縛から解き放たれたかと思いきや、今度は「仕事」という新たな呪文が……。
まあ、話はそれたが、コナンのスゴイところは物語がどんどん進行していって、クライマックスにすさまじく盛り上がることだった。その最たるものが「ギガント」の登場だったが、それは次回に詳しく述べましょう(大体今回まったくガレージキットの話なんか出てきていないし…)。
2002年11月28日更新
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