「まぼろしチャンネル」の扉へ
「番組表」へ 「復刻ch」へ 「教育的ch」へ 「東京カリスマch」へ 「日曜研究家ch」へ 「あった、あったch」へ 「再放送」へ 「ネット局」へ
ら〜めん路漫避行
まぼろし書店・神保町店
少女漫画 ふろくの花園
帝都逍遙蕩尽日録
定食ニッポン
駅前ガラクタ商店街
日本絶滅紀行
怪獣千一夜
秘宝館
掲示板
マガジン登録
メール
まぼろし商店街
まぼろし洋品店

「ガラクタ商店街」タイトル

さえきあすか

その10 お相撲貯金箱の巻


『古写真で見る大相撲展』の案内 手元に1枚のハガキがあります。昨年の10月に届いたもので、『古写真で見る大相撲展』の案内でした。私はこの個展にいきませんでした。どうしていかなかったのか。悔やまれて仕方がありません。「いこう、いこう」と思いながら、毎日がバタバタと過ぎてしまって、そうこうしているうちに肝心なハガキが見当たらなくなってしまい、再び目の前にでてきた時には、すでに個展は終わったあとでした。

 ハガキを送ってくださった方は、コレクターの大先輩で、いつもなにかと心配りをしてくださる景山忠弘さんです。景山さんといえば相撲グッズのコレクターとして、とても有名な方で、数多くの著書をだしておられ、雨が降ろうが雪が降ろうが、骨董市にはかならず早朝にいくという、ものすごく熱心な方です。

 私はでてきたハガキを呆然と眺め、「こんなところにあったのか」とガックリ。「また、やってしまった‥‥」悪気はないのですが、ご案内をいただいても、なかなかいけなくて。いえ、時間はつくろうと思えばつくれるくせに、腰が重いというか、のんびりしているというか、後で落ち込むくらいなら、さっさといってしまえばいいものを。「景山さんは気を悪くされただろうか? 手紙を書こう」、そう思いながら結局ご無沙汰が続いてしまいました。

 6月1日のこと。田舎に帰省していた私の携帯電話に、5月30日に景山さんが亡くなられたとの訃報が入りました。あまりにも突然のことで言葉はなく、ただただ驚いて、瞬時に自分の非礼を悔やみました。57歳という若さでした。田舎には用事で帰っていたので、東京にもどるわけにもいかず、お通夜もお葬式もいけませんでしたが、後日ご自宅にお伺いして、景山さんのご家族にお会いしました。

 死因は癌だそうです。苦しい治療を受けながらも、最後の最後まで愚痴ひとついわずに病と戦いつづけた姿は、硬派で体育界系の景山さんらしい。亡くなられる数日前に「次の原稿が書きたいから自宅に帰らせてほしい」といわれたそうですが、奥様はとてもせつなく、辛い思いをされたと思うと、やりきれない気持ちになりました。

 「本当に尊敬できる、いい主人、父でした」と、奥様、娘さんはいわれました。とかくコレクターのご家族、特に奥様は、コレクションに対して好意的に思っていない方が多いという話をよく聞きます。景山さんの奥様も「自分は古いモノには関心がない」と、ハッキリいわれますが、景山さんの趣味をしっかりとみとめて尊敬しておられる姿に、いかに景山さんが趣味と家庭をきっちりとわけて捉えておられたか、まずもって、しっかりした生き方を示してこられたかと思いました。さまざまなお話を聞きながら、泣き、笑い、もっと早くにお聞きすればよかった。それもご本人の言葉で。と思わずにはいられません。そして、ご家族の方が1日も早く元気になられますように‥‥と願いました。『大相撲7月号』(読売新聞社)

 病床でまとめられた最後の原稿は、『大相撲7月号』(読売新聞社)の中、『景山忠弘の大相撲びっくり博物館』に掲載されました。ページを開くと、相撲の絵柄ばかりデザインされたマッチラベルが楽しげに並んでいます。

 景山さんと私の出会いは、平成10年に発行された景山さんの著書『コレクター・骨董市雑学ノート』(ダイヤモンド社)の中に、女性の収集家として紹介してくださったことにはじまります。『コレクター・骨董市雑学ノート』(ダイヤモンド社)景山さん自身もお相撲さんのように大きな方で、はじめて会った時は「怖そうな人だなぁ」と思い、緊張したのをよく覚えています。けれど、緊張したのは私だけではありません。『童心』という、景山さんとさまざまなコレクターが集まってつくっているミニコミ誌で、『景山忠弘追悼号』を発行され、読んでみると、誰もが景山さんと最初に会った時には緊張しているのです。

 噛めば噛むほど味のでるスルメではありませんが、景山さんは、つきあえばつきあうほど楽しく、深くおつきあいできる方だったのです。そんな人柄に誰もが惹かれ、長年一緒に趣味を楽しんできた時間の積み重ねが、誌面からうかがい知ることができます。そして「どうして?」という、景山さんを失ったさびしさと、辛い気持ちがヒシヒシと伝わってくるのです。その中に、『その6.ベティちゃんの巻』でご紹介した安野隆さんも参加していました。彼のコレクションの集大成である『日本製・ベティ・ブープ図鑑 1930-1960』を景山さんはとても楽しみにしていたので、本を見てもらえなかったこと、感想を聞けなかったことがとても残念そうです。『童心』*『童心』(頒価300円)のお問合せは、東京都杉並区和田3−30−1「童心会」まで。

 景山さんが集められた数多くの貴重なモノたちは、突然主人がいなくなったことで、途方に暮れているように見えました。多くのモノとともに生きるって、暗い地味な趣味と思われがちですが、モノを維持していくには、かなりの精神力、根性が必要です。買いつづけていくのは楽しいのですが、いかんせん対象が古いモノですから、保存、置き場所には、かなりの労力を使うのです。つくづく物事は一長一短、良いことと悪いことは、いつも背中合わせなんですよね。そんなことを思いながら、自分自身のモノとのつきあい方も少し見直そうかと、ぼんやり考えています。

お相撲の貯金箱

 今回は景山さんの大好きなお相撲の貯金箱をご紹介して、しめくくりたいと思います。私のコレクションでは、数少ない相撲関連のモノです。戦前につくられた陶製の貯金箱で、高さは約11pです。同種のモノだと野球のキャッチャーの貯金箱も持っており、相撲と野球の人気が高かった時代がしのばれますが、それゆえに今でも欲しがる方は多いのでしょう。骨董市でもあまり見かけず、意外と入手はむずかしいのです。気のせいか、このお相撲さんと景山さんって、ちょっと似ていると思うのですが‥‥。心より、ご冥福をお祈りいたします。


2002年10月23日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com まで


その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


「カリスマチャンネル」の扉へ