第7回
「高級模様入お化粧紙ってナンすか」
の巻
串間努
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小学校の「女子」ってやつは、男子にいろんなものをくれた。ドラえもんのイラスト入り千代紙だったり、預金通帳くらいの大きさのメモ帳で、1枚を3つに分割できるミシン目がついているものなど……。女子は特に使いみちがないのでくれるのだ。あげること自体が遊びだった。
この辺のグッズは女子も割と気軽にくれたが、貴重だったものに、「模様入りちり紙」というものがある。便所紙と呼ぶ、ねずみ色がかったしわしわの古紙再生紙と違って、現在のポケットティッシュのような白いちり紙に、TVや漫画のキャラクターの輪郭が青く印刷されている。淡く匂いがつけてあった気もするな。海苔1帖を半分に折った感じで1袋に20枚くらい入っていた。こいつはなかなかくれなかった。(断っておくが、模様入れちり紙は女子から入手するのはいいけど、男子が自ら買ったりするのは恥ずかしいこととされていた。消費・購買するのは女子で、コレクションするのが男子であるという傾向は小学生の昔からなのである)ましてや本来の使い方ではあるのに、これで鼻をかむ女子などはいなかった。それは千円札で鼻をかむような行為に思えた。
このちり紙と再会したのが、ある古書会場。5年前のことだった。「うわーコレあったなー」と思って買い求めると、そこに「マルヨシ」という文字が。これはメーカー名だろうとは思ったが、住所までは書いていないから取材は無理だ。だが、引きが強いボクにはそれが判明してしまうのである。しばらくしたら、実家にちり紙コーカン車がやってきて、置いていったちり紙のメーカーが「丸好製紙」。これは「マルヨシ」と関係あるに違いないとひらめいた。しかもありがたいことに住所がある。早速104番で電話を聞き、事務所に尋ねて見ると……。最初にでた人は本社の方で「よくわからないわ」という。ここで引き下がってはならないとボクも「じゃ昭和45年頃に働いていた方をお願いします」と頑張った。そうしたら工場長さんが出てくれて「ああ、ウチでやってましたよ」とあっさり。取材が実現し、高知まで飛んでいったのであった。
まずは工場の中を案内され工程を見学した。カナダのパルプ、レーヨン、スフなどの原料をミキサーで粉砕混合し、チエストに溜める。これを抄紙機にかける、その際にシリンダーに模様の型があるので、原料が模様の部分だけ付くものができる。それを2枚一緒に合わせて抄紙(二重漉き合わせ法)すれば模様が印刷されたようになるのだ。ボクは透かしのようなものかと思っていたら逆で、白い紙に青い模様の紙を余計につけていたのであった。
──これ、正式名称はなんていうんですか
「高級模様入お化粧紙です。やり始めはね、魔法使いサリーで昭和37年頃かな」(森沢林平取締役 以下同じ……それにしても製紙会社ならでは、パルプっぽいお名前ですね。ステキです)
──やろうと思ったきっかけは
「お札の関係で、障子紙の漉き入れ紙の大蔵省の許可を取りにいった時だね。これをベースにキャラクターを使ったら面白いだろうと……」
──障子紙の模様から発想されたのですか。売れましたよね。
「うん、かなり売れた。テレビのキャラものは、版権を得てね。仮面ライダーと、サリーちゃんとオバQが特に売れて版権料だけで800万円くらいいったからね。高知が最初に初めて、当時は3社くらいあって同時に発売って感じかな。最初は三つ折だったね」
──種類はたくさん出てたんですよね。
「種類は当時は年に4種類くらいでて、20円から始めて、30円になって、昭和47年まではよく売れたね。だけどオイルショックが転機となって、形態が変わったわけですよ」
──形態?
「子供向けからボックスものに変わってきたわけ」
──京花紙から、ティッシュになったんですね。京花紙って何に使うんですか。
「これも鼻をかむんです」
──ボクらの時代だとこれを買ってきた女子からもらって交換したりしていたんですが。
「えーえーえー。知っているよ」
──知っていたんですか!
「で、紙の裏に『当たり』ってある時は、ぬいぐるみとか玩具のキャラクターグッズがプレゼントされたんだね。シールも付けたことがあるね」
──こういう紙の作り方って特許とかとっていないんですか。
「特許はとらなかった。障子紙の製造特許を先に山梨で取られていたし。また、業界の発展のためにあえて特許の申請はしなかったんだね」
──今はもうこの模様入り京花紙はないんですよね。
「これはないけど、今はポケットティッシュが主流でありますよ。あと、京王プラザホテルのトイレットペーパーに使用されているのもそうだね」
──なんでなくなったんでしょう。
「子どもさんが、こういうのじゃなくてテレビゲームで遊ぶようになったし、京花紙だと紙が大きいでしょう。ポケットティッシュの方が小さくて柔らかいからだろうね」
──じゃ版権料が高くて止めたワケではないんですね。
「そうじゃない。消費の多様化で形態が変わってきたんです」
──これ、匂いがついていた気がするんですが……。
「一時は、やってたね。加工の段階で噴射するんだ。漉き込みの後で小さい紙片に染み込ませたものをはさみこむ。すべて手作業です」
●「GON」を改稿
2003年4月22日更新
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