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「蕩尽日録」タイトル

南陀楼綾繁

11月某日 秋晴ノ鎌倉ヲ優雅ナ一日ヲ過スモ結局何時モ通リトナル事


 暑かったり寒かったりで、夏からそのまま冬になるような日々が続いているが、今日は珍しく、いい天気だ。目先の仕事はいくつかあるのだが、こういうときには外に出てみたい。出不精のヨメ・旬公もついてきた。

 西日暮里から山手線に乗り、上野で京浜東北線に乗り換える。時間的には東京駅で横須賀線に乗り換えるほうが早いのだが、のんびりと座っていくのも悪くない。本を読んだり、居眠りしているウチに大船に到着。旬公が改札口まで走り、大船軒の鯵の押し寿司を買ってくる。好物なのです。

 北鎌倉で降りる。ココはホームから直接外に出られるようになっていて、駅員さんが切符を受け取る。じゃあ、ICカードの「SUICA」はどこで精算するかと云えば、まるでお地蔵さんみたいに小型の「SUICA」専用精算機がホームに設置されているのだ。写真を撮りはぐったので、お見せできないのが残念。全国のローカル駅のホームには、同じモノが設置されているのだろうか? 妙な時代になったもんである。

高見順の墓

高見順の墓

 ココから鶴岡八幡宮までは歩いて20分ほど掛かる。道がくねくねと曲がっている上に、クルマがひっきりなしに通っていくので、快適な散歩道とは云いかねるのだが、鎌倉の有名な寺である円覚寺も建長寺も東慶寺も、全部この通り沿いにある。東慶寺まで歩き、奥にある墓地へ。ココには和辻哲郎、西田幾多郎、安部能成、岩波茂雄、田村俊子といった著名人の墓がある。この辺りまで踏み込むヒトはあまりいないのだが、さらに奥に行くと周囲からホトンド見えない場所に高見順の墓がある。墓の前には石が三つあり、腰掛けることができる。旬公は大学生のころから、ここでサボってたそうな。鯵の押し寿司を広げ、蚊を追い払いながら食べる。

ヨゼフ・チャペックの本

ぼくが所蔵しているヨゼフ・チャペックの本

 また例の道に戻り、ひたすら歩いて、鶴岡八幡宮の裏口にたどり着く。ココには鎌倉県立近代美術館があり、いまは「チャペック兄弟とチェコ・アヴァンギャルド展」が開催中だ。チェコの代表的作家カレル・チャペックと、その兄で多くの本の装丁・挿し絵などを手がけた画家ヨゼフ・チャペックの作品を中心に、1920年代から30年代に掛けてのチェコの書籍・雑誌・絵画・写真などを集大成する。ヨゼフの装丁本がずらっと並ぶコーナーに目が釘付け。見てるだけでシアワセな気分になる。そのナカには、ぼくがチェコの古本屋で買い集めた本と同じのが、数冊入っていた。チェコ語が判らないくせに、よく見つけたものだ。この美術館はときどきイイ展覧会を開くのだが、展示の内容だけでなく、建物も素晴らしい。第一室、第二室を見終わり、階段を下りると、池のある中庭に出る。ココのベンチに座って、ボーっとするのが好きだ。300ページを超える力作の図録を買い、美術館から外へ。

 近くの鏑木清方美術館にはまだ行ったことがないので、行こうとするが、まだ4時過ぎなのにすでに閉館時間。鎌倉というのは美術館も店もやたらと夜が早いのだ。しょうがないから(?)、いつもの古本屋巡りに切り替える。まず〈藝林荘〉へ。美術書や伝統芸能の本が多く、ときどき安い小説本が見つかる店だ。今日はやたらと客が多く、ゆっくり見られずに出る。そのあと、小町通りから横道に入って駅の裏側に抜けようとしたところ、線路を渡ったあたりに、古本屋を発見。ショーウィンドーには本や雑誌と一緒に器やカメラなどを並べている。骨董兼古本屋なのか。店名は〈游古洞〉とある。

古本屋〈游古洞〉

古本屋〈游古洞〉

 店内に入ると、狭いスペースに本がギッシリと、しかもきちんと並べられている。コレはいい店だという直感が働き、隅からくまなく見て回る。古い小説集や評論が結構多く、どれも保存状態がいいし、安い。迷った末に、尾崎一雄『ぼうふら横丁』(池田書店)、『すみっこ』(講談社)を選ぶ(あとで『すみっこ』はすでに所有していたと判る。私小説作家の本はどれも同じような装丁なのでマチガイやすい)。豆本が何十冊も入った箱もあり、それを漁って、札幌の喫茶店〈サボイア〉が出していた豆本雑誌『窓』を1951年の創刊号から18冊というのを見つける。コレが1000円、安いなあ。旬公は棚の下のほうから、古い着物が詰まった袋を見つけ、一枚ずつ選んでいる。カネを払うときに女店主に聞くと、もう10年以上前からこの場所にあるとのこと。考えてみれば、この道を通るのは夕方以降でいつも閉まっていたのだろう。今後通う店が一軒増えた。

 外に出るともう真っ暗。もう一軒だけ古本屋に行っておきたい。旬公と別れて、裏通りを歩き、〈公文堂書店〉へ。鎌倉に来るとかならず寄る、古くからある店。間口が広く、いろんなジャンルの本を置いている。数カ月前に来たときにはかなり買ったが、今日は収穫ナシ。上林暁『聖ヨハネ病院にて』(新潮文庫・復刊)270円の一冊だけを買う。駅のほうに戻り、商店街の途中にある店に入る。あとから旬公も合流。この店、コーヒー店かと思えば、中国茶・日本茶を飲ませる店だった。メニューから◎◎(名前忘れた)という中国茶を頼むと、鉄瓶にお湯を入れて持ってきてくれ、それを自分で急須に注いで飲むのだ。ちょっと甘味のある茶で、美味しい。一緒についてくるお菓子も。1000円近く取られるけど、コーヒーと違って何倍でも飲めるし、飽きない。休憩に最適な店だ。

 鎌倉散策を終え、電車に乗り込む。このまま帰ってしまえば、優雅な一日で終わったのだが、そのあと大森で降りて屋台を探すという、旬公の取材に付き合い、古本屋も一軒見て、最後に焼き鳥屋で夕飯というコースをたどった。ウチにたどり着いたのは11時ごろ。どうしていつも、こうバタバタとしてしまうんだろう。二人分の貧乏性は一生直りそうにない。


2002年12月11日更新
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