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「蕩尽日録」タイトル


8月某日 自転車ニテ出カケ、
南千住デ「小松崎茂」ニ会フ事
 

南陀楼綾繁



 谷中に住んだのは10年前、西日暮里に移ってからでも6年も経つのだが、長い間、ぼくの行動範囲は山手線の「内」、つまり、谷中・根津・千駄木の通称「谷根千地域」に限られていた。
 ところが、2、3年ほど前から、自転車で山手線の「外」に行くようになった。つまり、三河島、三ノ輪、南千住、尾久といったエリアである。この辺りには、ガイドブックに載るような名所は少なく、流行の波に乗ることもない。一見、動きがなく面白みに欠けると思われがちだが、じつは、通えば通うほど味の出てくる街が多いのだ。
 だからぼくは、今日も自転車で「外」へ向かう。
 
 JR西日暮里駅の高架を抜け、道灌山通りを北に走ると、宮地の交差点にブツかる。ココは五叉路、いや、中央に高速道路が走る道があるので、七叉路という珍しい交差点で、信号を待つ時間がヤタラと長い。
 だから、ココに来るといつも信号を待ちながら、左に行こうか、右に行こうかと思案するのだ。今日はとりあえず真ん中の、明治通りを走るコトに決めた。
 荒川区役所の手前まで来ると、大衆食堂の〈三岩〉、立ち飲みの〈なごみ〉など、ぼく好みの店が並んでいる。とくに、中華料理屋の〈ハルピン〉は、ラーメンも焼きそばもとてもウマイ。こんな暑い日には、すぐさま中に入り、「ビールにラーメン」と叫びたいのだが、ガマンして先に進む。
 サンパール荒川という複合施設の先を左に曲がる。まっすぐ行けば総合スポーツセンターがある。その裏が南千住野球場。1980年代、ココには映画会社の大映のプロ野球チーム・大毎オリオンズが本拠地とする「東京スタジアム」があった。こんなトコロに、プロ野球場があったなんて、信じられない。

中華料理屋の〈ハルピン〉

 素盞雄神社の手前に、3階建ての荒川区の建物がある。2、3階は南千住図書館で、蔵書数が多いし、使い勝手もイイので、よく通っている。1階は〈荒川ふるさと文化館〉である。荒川区の歴史、社会に関する常設展示と、年に数回の企画展を行っている。会場は決して広くはないが、いつもディープなテーマを扱っている。さっきの「東京スタジアム」に関する知識も、この館の企画展で知ったものだ。
 今日はココで、「下町の空想画家 小松崎茂」展を見る。小松崎茂といえば、絵物語、少年雑誌の口絵イラスト、プラモデルの「箱絵」(パッケージの絵)などで活躍した画家である。名前を知らなくても、その絵を見れば、「ああ」と気づくヒトも多いだろう。ぼくは、リアルタイムでは小松崎の絵を知らなかったが、大伴昌司が構成を手がけた『少年マガジン』の巻頭口絵をあとで見て、「いかにも未来!」な流線型のメカやロケットに魅せられた。
 なぜ、荒川ふるさと文化館で小松崎茂なのかといえば、彼は1915年に南千住で生まれているのだ。第二次世界大戦末期の空襲で、彼の生家は焼失し、その後、千葉県柏市に住んで、二度と南千住に戻ることはなかったが、晩年まで「帰りたい」という思いを抱いていたそうだ。
 今回の展示では、小松崎の業績をたどりつつ、最後のコーナーで、小松崎と南千住の関係にスポットを当てている。小松崎の絵の多くには、少年のころに遊んだ汐入の湿地帯や、工場の巨大なガスタンクなどが描かれているそうだ。また、少年時代にこの辺りの風景を丹念に描いた「隅田川の研究」と題するスケッチ帳も展示されていた(残念ながらオリジナルは焼失し、スケッチを写真撮影したものしか残っていないのだが)。
 未来の都市や、最先端の科学を描いた小松崎茂の原点に、泥臭いとも云える南千住の風景があったとは、意外でもあり、ドコか納得できるような気もする。
 32ページという薄さながら、カラーページもあり、充実の図録(たった390円なのだ!)を購入して、館を出る。

「下町の空想画家 小松崎茂」展の図録

 もうしばらく、南千住を走ってみよう。素盞雄神社の前を渡ったところが、「コツ通り商店街」だ。近くに小塚原刑場があったから、こんな名前なのだという。最初はギョッとしたが、ごくフツーの商店街だった。
 途中を右に折れたところに、小さな喫茶店がある。その名も〈魔性の味 オンリー〉。浅草のかっぱ橋道具街の近くにも同じ店があるが、そちらはまだ入ったコトがない。南千住の〈オンリー〉は外装こそ目立つが、中に入ると、中年男性のマスターに、コーヒーからレモネードまで飲み物各種アリ、食べ物も豊富な、フツーの喫茶店である。コーヒーはサイフォン式で、味は苦味に特徴があるものの「魔性の味」というほどではない。
 ほかに客がいないので、腰を落ち着けて、図書館で借りた本を読む。芦辺拓『不思議の国のアリバイ』(光文社文庫)だ。ページをめくり、舞台となる大阪の街に思いをはせる。

〈魔性の味 オンリー〉

 もう夕方になった。再び自転車に乗り、宮地の交差点まで戻る。ちょっと古本屋に寄っていきたい気分だ。右に行けば綾瀬で、京成線のガード下の路上古本屋がある。その隣の道を選べば、新三河島の〈鈴木書店〉、まっすぐ行けば千駄木の〈古書ほうろう〉がある。
 信号を待つあいだに、また悩んでしまった。山手線の「外」で遊ぶのは、ワクワクするほどおもしろい。


2005年8月25日更新
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