さえきあすか
その12 趣味のマーク図案集の巻
昭和25年に日本文教新報社より発行された、『趣味のマーク図案集』という薄っぺらな本があります。表紙をめくると「一家で楽しめるコレクション趣味
皆さん! 新聞から、雑誌から、美しいマークを集めましょう」と書いてあり、思わず「ステキな本だわ」と、ほのぼのした気分でつれて帰りました。
編集者いわく、「趣味といってもいろいろありますが、マーク集めなら費用もかからず手軽にでき、また由来などを調べれば興趣も増加します。この図案集が図画工作、刺繍模様、マーク新考案の参考になれば幸いです」とのこと。
いったいどんなマークを集めるのかと思い、ワクワクしながらページをめくると、都市の紋章、出版社、銀行、デパートなど、さまざまな企業のマークや、菊、桐、松などの模様を集めるようにと紹介してあります。それも、ページごとに見本が印刷してあるのですが、レイアウトが雑! まがっていたり、バランスが悪かったり、裁断が上手くいかなかったのか文字が切れたりして‥‥。そのうえ紙の質も悪いのですが、昭和25年という時代を考えればしかたのないことです。けれど、この雑さは趣味の手軽さを感じさせてくれ、読者は集めてみようと思ったのではないかしら?
最初からあまりキチンとしたものを見せられたら入りにくいですからね。そしてまた、切り貼りでミニコミの版下を製作してきた私は、この体裁に妙な親しみを覚え、えらく気に入りました。
マーク集めといえば、マッチラベルの貼り込み帖もステキです。最近ではマッチを使うこと自体少なくなりましたが、昭和初期に栄えたカフェなどのマッチは、デザインがかっこよく、数個あるコレクションを眺めてはニンマリとしています。貼り込み帖は持っていませんが、古書店ではちょくちょく見かけます。昔の人は切手やマッチラベル、切符、旅行先で入手した時刻表や紙キレなどを上手に切り貼って、コレクションとして愛で、思い出として大切にしていたんだなぁと、感心することがよくあるのです。1ページづつ増えていくコレクションに、喜びと楽しさを感じていたのでしょうね。
そういえば、古書店の店名ラベルだけを集めている人もいます。古書が好きな方も多いですものね。私も古本を手にとって、裏の値段をチラリと見た時に、かっこいいラベルが貼ってあると、なんだかトレーシングペーパーがかかった本のような風格を感じて、いいモノを買った気分になります。それとは逆に乱暴な、それも力強く鉛筆で値段が書いてあったりすると、毎回消しゴムで消して、カバーにトレーシングペーパーをかけている私としては、「チェッ」と損をした気分になるのです。
古書店のラベルの中では、神保町にあるキントト文庫さん(東京都千代田区神田神保町1-19-1 藤本ビル2階 電話:03-3294-8700)のものが大のお気に入りです。太った可愛い金魚と大人びた金魚の2種類があります。両方とも店主がデザインしたラベルで、さすがだと感心しきり。親しくおつきあいしていただいて、かれこれ5年になりますが、彼女の本の選び方といい、ディスプレイのセンスといい脱帽です。尊敬している女性の1人なのでした(一応ほめておく)。古書店のラベルを集めておられる方は、キントト文庫さんのラベルは要チェックですよ。
どんな趣味にもいえることかも知れませんが、なにかを集めるとなれば長期戦だとつねづね思います。先日10年以上のおつきあいがある古道具屋の月天さん(東京都世田谷区北沢2-1-3 電話03-3424-8445)に本棚を届けてもらい、部屋に並んでいるモノたちを見て話していたのですが、モノって不思議。何年も前にやってきたのに、彼はしっかりと覚えていて、当時私が買った状況や仕入れた時の様子まで語り合えるのです。これはモノのなせる技というか、変化しない形あるモノだからこそ、彷彿させる光景だと思います。だって、記憶ってあいまいなんだもん(私だけ?)。
「これがね、一番最初に買ったモノだよ。私にね“戦前のガラクタが好きですか?”って聞いてきたんだよ〜」
「懐かしい! こんな色だった? 今は見ないよね」
気がつくと深夜2時。慌てて解散しました。
昭和25年に「マーク集めを趣味に‥‥」といっている時代と比べちゃうと、ずいぶんと贅沢な私の趣味ですが、私にとってのコレクションは平面の紙ではなく、立体のモノなわけで、部屋全体が貼り込み帖といえそうです。いつまで続くかわかりませんが、細く長〜く、楽しく続けていきたいですね。
2002年11月29日更新
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