南陀楼綾繁
12月某日
六本木カラ高円寺マデ
本ヲ求メテ一日旅行スル事
【後編】
あれやこれやあって、五反田の古書展会場にたどり着く。今日は二日目なので、比較的ヒトの姿が少ない。1階はガレージみたいになっていて、中も外もぎっしり本が詰まっている。まずココで安い掘り出し物を見つけ、そのあと2階に上がるのが、五反田展ではよろしい。今日は1階ではあまり欲しいものがなく、大正14年の雑誌『新旧時代』を一冊500円で買ったのみ。そろそろ上にあがろうかと思ったところに、K社のタカノさんが現れる。若いけど、ぼくなんかとも趣味が合うところがあり、リブロのアラキに続いて、舎弟2号に勝手に任命している。彼女は古本屋の本をつくろうとしているので、じゃあ古書展を見ておけば、と誘ったのだ。
タカノをその場に残して、2階に上がる。月の輪書林が出品している棚で、大正・昭和の出版目録がたくさん出ている。出版物の取次店が発行している月報の類で、そこに載っている本の広告がめちゃめちゃオモシロイ。たとえば、「オギヤアオギヤアと、生まれる前に 用意は よしか」というコピーで、『姓名学大全』と『最新産婆全国試験問題解答集』の広告が載っている。センスいいねえ。ほかにも数冊持って帳場に行くと、その月の輪書林の高橋さんに出会う。「ちょっと出ようか」と云うので、タカノも誘う。彼女が見終わるのを下で待つ間に、金子勝昭『菊池寛の時代』(たいまつ社)500円を見つけ、買っておく。
月の輪さんと行くのは、いつもすぐそばにあるハンバーガー屋。ハンバーガーなんか食いはしない。コーヒーも飲まない。飲むのはビールだ。昼間からオープンカフェっぽいこんな店に座って、雑談しながらビール飲むのはイイ気分なり。古本屋の裏話をあれこれ聞く。そうこうするウチに2時過ぎた。会場に戻る月の輪さんと別れ、駅近くの〈宝亭〉で、シューマイとラーメンを食べる。コレからもう一カ所移動するので、腹ごしらえ。
五反田から新宿経由で高円寺へ。今度は高円寺の古書展へ。昨日、仕事の合間に、神保町の方にも行ってるので、今週は皆勤賞だ。ココは今日が初日なので、さすがにヒトが多い。外台(吹きっさらしの戸外に本が積んである)で、「朝霞事件」で入獄した滝田修の『昔の名前で出ています』(新泉社)300円を。内容には興味ないけど、表紙が赤瀬川原平だったもので、つい。ナカに入ると、入り口のところにしゃがんで雑誌を一冊ずつめくっているヒトがいた。やはりライターの岡崎武志さんだ。タカノも面識があるので、あとで三人でお茶を飲むことに。
買ったもの。『嫁入叢書 趣味篇』(実業之日本社)500円。能楽、長唄、義太夫からピアノ、野球、テニス、短歌、俳句、トランプ、麻雀に至るまで、ご家庭で楽しめる趣味入門を集めたもの。「金魚の飼ひ方」なんて、最初の見出しが「金魚は飼ひ主の顔を見分ける」だもん、イイよねえ。装丁もカワイイ。もう一冊は、柳澤利洋『郵便切手蒐集の入門書』(啓徳社)1500円。切手収集の入門書は多いが、太平洋戦争の真っ只中の昭和17年にこんな本が出ていたとは。「若し健全娯楽であるこの郵便切手蒐集に依り、欧米自己主義、自由主義国のたどり来つた過去の歴史の過程を参考にされ幾分なりとも国威発揚文化発展に裨益するところがありとすれば」云々と、ご時世に合わせて苦しい言い訳しながら、こんな趣味的な本が出ていたというのがオモシロイ。
会場を出るときに、『昭和20-30年代広告スクラップブック』5000円というのが目に留まる。この手の貼込帖は古書展で多く見かけるが、値段が高いワリには、内容がスカスカのものがよくある。期待せずに手に取ったのだが、中身を見てたちまち引き込まれる。たとえば女性のカットを集めたページ、タイトル文字を集めたページなど、全ページにわたって密度の濃い貼りこみが行なわれているのだ。おそらく作成者はデザインなどの関係者に違いない。「高いのに出会っちゃったなあ」と文句云いつつも、しっかり買う。
三人で近くのジャズ喫茶〈ナジャ〉に行くが、貸切で入れず、駅の南側の〈4丁目カフェ〉に行く。コじゃれたカフェなので、落ち着かず。それでも、お互い戦利品の見せ合いっこをする。あとでタカノに、「古本関係のヒトが出会うと、いつもお茶に行くんですか?」と聞かれるが、一日に二回も行ったのは珍しい。岡崎さんと別れ、もう少し回ろうと、〈十五時の犬〉に行く。次に行った〈都丸書店〉の店の外の棚(ココも安い)で、古山高麗雄『身世打鈴』(中央公論社)、鷲尾洋三『東京の空 東京の土』(北洋社)がいずれも500円で買えた。
二人ともものすごく増えた荷物を持って、南口のロータリーの角にある焼き鳥屋〈大将〉へ。ココは3時からやってるし安いので、ちょっと入るのにはイイ。ただし、今日は大学生かなんかが10人ぐらい集まっている席の横に座ったので、ウルサかった。古本屋本の企画について、無責任にあれこれ云いつつ、ビールを飲む。総武線で代々木で乗り換え、会社に寄るというタカノは大塚で降りる。西日暮里に着いたら8時。さすがに疲れたけど、楽しかった。こういう一日コースの逍遙&蕩尽をせめて週に一度はやりたいけれど、カネもヒマもないからなあ。次の機会を待つコトにしよう。
2003年1月23日更新
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