さえきあすか
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
部屋の温度計が10度をさしています。ちなみに湿度は60%。肌と喉にはいい環境ですね。ちなみにわが家には温度計が3つ、湿度計が2つあります。
しかし、寒い!
こたつがあるからいいけれど、台所は6度の時もあります。友人には、
「信じられない! そんな寒い中でよく生活しているね。悪いけど春になるまでお宅にはいけないわ」
なんて、真顔でいわれる始末。
思うに、どんどんひと昔前のような生活状況になっている気がします。
「戦前のモノに囲まれているからといって、生活までそうしなくても」
っていわれそうですが、わざとしているわけではありません。
洗濯は洗濯板など使わず、洗濯機が全部してくれますし、お風呂だって薪で焚かなくてもよいし、こたつがあるから火鉢の炭をおこさなくてもいい。湯わかし器があるから簡単にお湯も出る。当たり前のこと。でもでも考えてみると、たいへん便利で感謝すべきこと。
ついついそんなふうに思ってしまうのは、『ローラー洗濯器』という商品名の、木製の洗濯器が目の前にあるからです。これは昭和の戦前か戦後すぐという、物資が不足した時代につくられたモノだと思いますが、“器”というだけあって箱型になっており、中に石鹸をいれて、木製のローラーをコロコロと衣類の上で転がして洗うという代物。片手で持てる、ちょうど亀の子タワシくらいの大きさです。こんな洗濯器で、お皿を洗うように衣類を1枚1枚洗うことを想像すれば、たとえ室温が10度であっても、ありがたい気持ちになってしまうは、仕方がないでしょう?(ローラー洗濯器については『ガラクタをちゃぶ台にのせて・晶文社刊』でも、ステキな写真で紹介しています。興味のある方は見てくださいね。)
それにしてもこの冬は寒いですね。東京も早々と雪が降りました。何もかもが震えあがっているようにさえ見えます。2002年の最後にやってきたモノは、この寒さからひらめいたのかも知れません。
それはウチにいるケロちゃん用に買った腹掛けです。今さら何がいても驚かれないでしょうが、薬局の前でよく見かける、コルゲンコーワのカエル人形もウチに住んでいるのです。それも、コマーシャルで「ヘソがないじゃねぇか」ってフレーズで一躍有名になった初期の立ち姿バージョンです(実は現在の座り姿の子もいるのですが)。このケロちゃん、大阪の骨董市からやってきましたが、そのお話はいずれするとして、今回の主役は腹掛けです。東京は港区新橋にある骨董屋・山重さんにて見つけました。
古い民具や器がメインに並んでいる山重さんは、上司のお友達がやっているということもあって、たいへんお世話になっています。よく遊びに行っているのですが、お店にこの腹掛けが並んだ瞬間、一目ボレしてパッと買ってしまいました。このときすでに、頭の中にはケロちゃんの姿があったのは、いうまでもありません。
“大”と大きな文字の入った藍染め腹掛けは麻製で、なんと幕末につくられたそうです。今まで紹介してきたモノの中で一番古いです。文字のごとく、わが家で一番“大きな”ケロちゃんがかけるのに、ふさわしい腹掛けだと思いました。それに腰で結ぶ紐の先には、ピンポン玉より少し小さいボールの飾りがつけられていて、とても可愛いいのです。
家に帰ると、早速ケロちゃんにかけてみました。思ったとおり、いえ思った以上に、よく似合います。まるでケロちゃんのためにつくられたよう。心なしかケロちゃんも嬉しそうです。後日写真を山重さんにも見せたところ、
「あら、可愛い! とってもよく似合うわね」
といわれました。私もとても嬉しいです。ケロちゃんも少しは寒さがしのげるでしょう。
大晦日の夜も、休むことなくアルバイトでした。もうじき3ヶ月になります。クリスマス、お歳暮、お年始、おせち料理、お正月関連グッズの販売などが通常業務に加算されて、大忙しの年末でしたが、それも今日で終わります(1月2日からお店は開くんだけどね)。
帰る寸前に屋上にある洗濯機に、今日1日お店で使用したふきん(ダスターか)をまとめて入れて、洗濯するという仕事があるのですが(もちろん全自動なので、スイッチをいれるだけ)、1人が洗濯機をまわしている間、ほかのアルバイト3人で、ドアを開けて待っているんです。屋上だから星空が近くてとてもきれいで、ずいぶん遠くまで見えますから、遠くに見える高速を走る車の音などが、暗い空に吸い込まれていくようで、ボーッと眺めていると、なんだか今の自分に対して、不思議なような、おかしいような気分になります。そんな時、洗濯機の音でパッと現実に引き戻されるのです。
私はこのひとときが好きです。仕事が終わった安心感と、なんとなく不思議な連帯感があるから。それにしても17歳も年下の子たちと、大晦日の夜に夜空を見上げるなんて思わなかったなぁ‥‥。でも遠い将来、この景色をぼんやりと思い出すような気がします。そして目の前の若い子たちに、
「ガンバレ! ガンバレ!」
っていいたくなります。もちろん自分にも。
お正月の飾りをつけるように、ケロちゃんに腹掛けをしめて暮れていった2002年でしたが、みなさんはどんな1年でしたか?
2003年3月10日更新
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