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日曜研究家串間努

第18回「進化するホッチキス」の巻


 女性の間では、キャミソールなどの透けるファッションが流行っている。モノの世界でも透明素材が増えてきた。清涼飲料水も天然水に軽く味つけをしただけのニアウォーター系飲料が人気だし、パソコンのマッキントッシュもiMacという半透明タイプの人気が高い。シースルー商品は一定の人気があるのだ。
 この動きは文房具にも及んでいる。なんと、透明なホッチキスが出たのだ。透明人気を受け、営業用に開発したのを定番化したという(針を凸凹しないようにしたフラット型のホッチキスがでたときに、営業マンがわかりやすく内部機構を説明した特注品をクリスタルホッチキスとして商品化)。
 発売したのはホッチキスの世界でもトップクラスメーカーのマックス。同社はもともと戦時中にゼロ戦の尾翼部品を作っていた。戦後、「平和産業に徹し、文化に貢献する」ということで、ホッチキスの製造を昭和21年に開始する。なお、一見戦後生まれに思えるホッチキスは、すでに明治36年にアメリカから輸入製品が上陸しており、大正時代には国産化された。
 マックスは戦前からホッチキスを作っていた向野事務器製作所から技術を引き継いだという。最初の製品は卓上型だった。
 卓上型は大きくて重く、オフィスの部や課に一つあれば……という感じだったが、昭和27年に小型の10号ホッチキス「SYC─10」を開発したことから、ホッチキスの歴史は転換する。小型で指先だけの力で綴じることができ、引き出しに入るようになったため個人に一台の時代になった。

 価格は200円。この頃の銭湯代は大人12円だ。決して安くはない。マックスは年ごとに値下げをし、昭和34年に100円とした。この価格は昭和45年まで続く。その間、指当たりをよくするためのヘッドをつけたり、針はずしを付けるなど改良が重ねられた。同社の10号ホッチキスのシェアは75%だ。
 書類をホッチキスで止めると、綴じ裏がめがね型に出っ張るため、たくさん重ねるとかさばる。これを回避するため、昭和62年には綴じ裏が平たくなる「フラットクリンチ」(1000円)を世界で始めて開発した。

 ホッチキスの世界をリードし続けたマックスだが、紙に穴をあけて綴じる「針なしホッチキス」は製造していない。古紙リサイクルの観点から針なしホッチキスは歓迎されたが、その点ではマックスは心配していないのだ。なぜなら古紙再生処理の過程では比重が重い鉄製の針は沈殿してしまうので分別に支障はないからだ。
 忘れがちだが、ホッチキスの針は鉄製である。メッキはしてあるが、鉄だから時間が経つと錆びる。そこで今ではステンレス製の針も登場しているという。ホッチキスの世界も中々奥が深いのである。

報知新聞を改稿


2007年2月9日更新


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