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さえきあすか

その20
 爆弾型鉛筆削の巻

爆弾型鉛筆削

 「第二次世界大戦の時の砲弾って、たくさん残っているものなんでしょうか?」
 骨董市でアルバイトをしていた時のことです。20代前半と思われる男性が尋ねてきました。
 「えっ、残っている量ですか? 少々お待ちください!」
 慌ててとなりのブースに出店しておられる、軍隊モノ収集家のHさんをつかまえました。
 「たくさん残っているってワケではないけど、ここに並んでいる砲弾は、どれも状態がいいし、この値段ならお買い得だと僕は思うよ」
 さすが、ご自身も好きで集めているだけあって、親切な言葉づかいの中にも重みがあります。横で棒のようにつっ立っていた私は、Hさんに合いの手をとるがごとく、
 「だそうです」
 と一言。男性の顔を見ながら、なんともお恥ずかしい限り。そもそも
 「モノには値段もついているし、お客さんのほうがなんでもよく知 っているから、店番してよ。立ってるだけでいいから」
 って頼まれたのを、安易に引き受けてしまった私が悪いんです。でも、となりの方がHさんでよかった。Hさんがお店に戻られると、数個並んだ砲弾を呆然と見つめた男性と私の会話がはじまりました。
 「僕は特に軍隊マニアってわけではないんです」
 「そうですか」
 「なんか、これに花を生けたら、おもしろいと思って‥‥」
 「砲弾にお花ですか! インパクトはあると思いますが、直接水を入れたら錆びてしまう気が‥‥」
 「えぇ、母がドライフラワーをつくっているもんで‥‥」
 「ドライフラワーなら問題ないですね。こちらの砲弾なんか、見ようによっては備前焼きに見えなくもないし」
 もう、メチャクチャな店員! でも後で思うと2人とも真面目だからオカシイ!
 「普通に売られている花瓶より、おもしろいですよね。ほかに使い道ありますか?」
 「文鎮! オブジェ! うーん。なんでしょう。でも歴史の産物がお部屋にいるのは、おもしろいと私は思いますけど」
 「どちらの砲弾がオススメですか?」
 「‥‥私なら、備前焼きっぽいこちらの砲弾を買います」
 「ですよね。ではこちらにします」
 「ありがとうございました」
 私がアルバイトをしているお店は、いろんなモノを扱っているのですが、今回に限っては、1人のコレクターからまとまってでたという軍隊モノがメイン。テーブルの上に並んでいるヘルメットや軍服はまだわかりますが、砲弾は大きさもさまざまですし、戦時中のポスターや、ピストルの弾入れ、なんだかワケのわからない金属のカタマリがゴロゴロしています。集まってくるお客さまも、映画『トップガン』の曲が流れてきそうな、サングラスにフライトジャケット姿だったり、外国のお客様や(日本語をしゃべってくれてよかった)、目つきが鋭くて、個性的で力強い感じの男性ばかり。
 でも、私は内心ワクワクドキドキしていました。「おもしろい!」って、嬉しくなっちゃうんです。アルバイト先のスーパーで知り合った方々からは、得ることができないワクワクさです。もちろんバイト先でもいろいろなことを学んでいます。物価のこと、生活のこと、生きていくこと。家族や地域のこと。それはそれで勉強になるし、世の中の厳しさみたいなものを知れたって感じなのですが、骨董市は違うのです。趣味の世界だからでしょうね。人の好みがこれほど多種多様なのかと、普段の生活がぶっ飛んでしまうほどに、感激して興奮してしまいます。
 目の前を通り過ぎていく先輩コレクターの人たちも、
 「かえるちゃん(私は骨董市ではこう呼ばれています)、ここでバイトしてるの? 何か買えた? そうそうあれ見た? 状態いいけど値段がねぇ」
 ってモノの話ばかり。というよりモノの話しかしません。
 「なんか平和でいいなぁ〜」
 としみじみ思いつつ、たまには売る立場から人を見るのも楽しいと思ったのでした。

 

爆弾型

 今回ご紹介するモノは、砲弾にちなんで「爆弾型鉛筆削」です。川越の骨董市で親しい業者さんからゆずってもらったモノですが、なかなか見ることができない逸品だと思います。素材はアンチモニーで、時代は戦前でしょう。この鉛筆削が子供の筆箱に入っている様子を想像すると、少々物騒な感じもしますが、当時の世相をよく表した品物だと思います。でも、わざわざ「爆弾」と書いてあるのが漫画みたいで可愛らしいし、先ほどの砲弾と同様に、現在の兵器と比べれば長閑な気もします。どちらにしても戦争は嫌ですが‥‥
 話のついでに、他の鉛筆削もお目にかけようと思います。これ専門のコレクターもおられるくらいですから、私のコレクションなど大したことはないのですが、それでもこれだけ集まってくるのですから、種類の多さなど想像もつきません。あまり大きいモノはありませんから、たくさん集めても負担にはなりませんが、刃が鋼なのでどうしても錆びやすく、状態の悪さから購入をあきらめたこともしばしばでした。

達磨型鉛筆削

 まずは「爆弾」と同じアンチ製の達磨型です。10年以上前に京都のお店で手に入れました。文房具といえば子供向けの可愛らしいデザインしか知らなかった私に、「こんなに渋いモノもあったのか!」と気づかせてくれた最初の一品です。また、このお店は私好みの小物が多く、しかも安いモノは50円くらいから買えたので、東京から通い詰めたのも忘れられない思い出です。残念ながらそのお店も今はありません。

アンチ

 次もアンチの3点です。いかにも戦前らしい日章旗はちゃんとはためいています。青いトラックはよく見るとボンネットに星のマークがありますから軍用かな? キャップ型はてっぺんに戴いた扇の装飾が細かいです。このように細工もでき、形も自由ですから、アンチは戦前の主役でした。グリコのおまけなどもそうですが、小さくても適度な重量感があるのでコレクションには最適です。

ブリキ製の箱型

 そうかと思うと、当時世界一といわれていたプリント技術を活かしたブリキ製の箱型もあります。メーカーは2社ですが3点とも同じ大きさで2×3センチ。今雑貨屋さんに行くとちょうど同じくらいのピルケースが売られていますが、戦前のモノの方が可愛らしいと思ってしまうのが私のセンスなのです。こんなに小さくても佳き時代のティントイの風格を持ち合わせていると思いませんか? しかし、ブリキは本当に錆びやすい。これらも細かな錆が浮いていますから、保管には気をつかわねばと思っています。

プラスチック製

 最後はずっと時代が下って、昭和30〜40年代のプラスチック製です。透明なので写真がわかりづらいかも知れませんが、両脇が野球選手、真ん中が「おじいさんの時計」を連想させる柱時計です。今では100円ショップでもこんなにチープなモノは置かれていませんが、出始めのころは物珍しさもあって、新素材であるプラはもてはやされました。特に子供は古くさいモノ=恥ずかしいモノですからなおさらです。そのせいか、見た目は非常にキレイですが、反面、実用性はあまり考えられていないモノが多いように思います。それにこのころのプラは、現在のモノと比べると硬くて脆い感じです。でも、これこそが自分の時代のモノですから、コレクションに加えてみました。串間さんの「まぼろし小学校」の生徒なら、誰でもひとつは持っていそうですね。


2003年4月23日更新
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その15 単衣名古屋帯の巻
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