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日曜研究家串間努

第19回「ヤマトのりが手につくとぬぐいたくなる」の巻


  このあいだ、郵便局で封筒を閉じるとき、デンプン糊が置いてあることに気づき、懐かしい思いがした。小学校時代にはさんざんチューブ入りデンプン糊のお世話になったものだ。すぐに手がベタベタになり、ヘラ付きカップ入りのデンプン糊を持ってくる子がうらやましかったっけ。
デンプン糊のチューブには哀愁を伴う思い出がある。
  ある日、私がチューブ糊を買って学校へ行くと、クラスの中が騒がしい。「何をしているのだ」と聞くと、てっちゃんが黄色いチューブ糊を買ってきて話題になっているのだった。当時、男子はブルーのチューブを、女子はピンクのチューブを買うという性差がまかり通っていた。
  そんな中にあって、てっちゃんは“黄色”というニュートラルというかグレーゾーンの色を買ってくるものだから、クラスの物議をかもしたのである。「ヘンだ!」「男じゃない!」とやかましい。男子がブルー以外の色を選んだって別に構わないと思うのだが、子どものころは近視眼的な見方しかできないので、とうとうてっちゃんを取り囲んだ一団は、泣かせてしまうのであった……。てっちゃん、ごめんよ。黄色でもいいよ。

  現在のようなデンプン糊は、ヤマト株式会社が発売した。
  「明治32年に、東京の両国で薪炭商を営んでいた木内弥吉という当社の創業者が、炭の小分け販売用の袋貼りに使う糊(姫糊)がすぐに腐ってしまうことに困っていました。当時は、糊の保存が効かないので、自分の家で作るか、『糊売り』から使う分だけを買っていた時代だったんです」(ヤマト株式会社)。

  木内さんは糊が腐らないようにするために当時の識者に尋ね、日本で初めて防腐剤入りの糊を考案、さらにその刺激臭を消すために香料を入れた。原料には精選された米のデンプンを使い、湯煎により加熱して均質の糊を作った。この結果、“腐らず・匂いがよく・固まらずに保存が効く”金属フタのガラス瓶入りの糊が誕生した。
  そして日本一の糊にしようという考えと、『商売が大当たりしますように』という祈りを込めて、丸い的に矢が当たるマークを考案。『矢的(ヤマト)のり』と名づけ、大八車に載せて会社や学校、銀行、郵便局などに販売を開始した。いやはや、日本を意味する「大和」が語源ではなかったのですね。
  当初は姫糊に比べて30倍もの価格だったというが、改良を重ねて値下げした。ちなみに“ひめのり”というのは、ご飯を煮てやわらくして潰した糊。障子貼りなどに使うため、昔は家で作りましたな。元がごはん粒なんだから、そりゃあ「舌きり雀」も食べてしまいますわねー。

  大正12年にはポスターのモデルに人気女優の栗島すみ子(『真珠夫人』を一番最初に演じた女優)を起用、大々的な広告で販路を拡大した。
  戦時中は、食糧が統制下に置かれたため、デンプンの原料である米が入手できなくなった。そのためやむなく、ヒガンバナやダリヤなどの球根からデンプンを抽出したという。容器もガラスが不足したため、陶器に変更された。また、食品会社を買収して乾燥五目御飯の素や干飯を海軍に納入し、物資不足で逼迫する時代の糊口をしのいだ(ココ、洒落です、洒落)。

  戦後は、デンプン糊の画期的な製法革命を起こした。従来の煮る製法から、加熱をしない化学的処理により、強力接着力で劣化しないデンプン糊を製造する『冷糊法』が完成したのだ。現在もこの製法が守られつづけている。
  容器も向上の一途をたどり、昭和27年にはチューブ入りを、33年にはボトル型を誕生させた。ボトル型はプラスチック時代の申し子のようなもの。ガラス瓶と違って、割れずに軽いことが市場の人気をさらった。
  「昔はワラと一緒に箱に詰めて割れないようにして輸送したものです。プラスチック型が出てからは、急速にガラス瓶へと世代交代していきましたね」

  平成10年には無香料の製品を発売したり、再生材を使ってエコロジーマークを取得するなど、時代とともに進んでいる。図工時間の減少や少子化など、とりまく環境は厳しいが、ロングセラーの強みで年配者に支持され、今も安定した売上があるという。
  「当社は『貼る』ということにこだわっています。デンプン糊もニーズがある限り、作り続けます」
  3世紀に亘る商品になることは当確だ。

「今は“液状”と“固形”が主流!?」


2009年10月21日更新


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