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その27
 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
弓屋かえる堂さえきあすか
セルロイド製のペンギン

 「お疲れさまでした。お父さん。」
 7月17日大安。“ちんどん屋さん”のアルバイトをした私の口から、自然にでた言葉です。
 12時から19時までの7時間。私は派手なお化粧をし、七五三以来の着物姿で、本日オープンしたお店の前にて、客引きのチラシを配っていたのです。
 「なにごとも経験!」私の口癖のひとつですが、まさか“ちんどん屋さん”までやることになるとは‥‥。われながら可笑しい。もちろん生まれてはじめての経験です。
 ことのなりゆきはというと、「その22 東郷青児の一輪挿しの巻」でチラッとご紹介しました、「桜梅屋(おうめや)」という屋号の“ちんどん屋さん”から、急きょ人が足りないといわれ、興味本位で引き受けたのです。

美香ちゃん
マコちゃん

美香ちゃん

マコちゃん

 午前9時。桜梅屋こと山田美香ちゃんの家には、本日一緒に仕事をするマコちゃんがきていました。すでに2人ともお化粧をしていて、かつらをつけられるように頭に手ぬぐいを巻いています。彼女たちの“ちんどん屋さん”歴は長く、お師匠さんのもとで経験を積んできたベテランです。マコちゃんは京都の舞妓さんのような可憐な着物姿。美香ちゃんは演歌歌手のような迫力ある姿。それぞれキャラクターが確立していて、私はどんなふうに化けるのかと思うと、ドキドクワクワク。嬉しくて仕方がありません。

左端がイワちゃん

左端がイワちゃん

 「さえきちゃん、足袋の一番上がしまらない。足太いよ」
 「うーん。仕方ないよ。今から細くならないもん」
 だいたい足袋なんて履いたことがないので、すんなりと足が入ってくれません。着物を着る順番だって、腰巻に肌襦袢に、たくさんの紐でしめて着物を着て帯しめて‥‥と、どうやって着るのかわからないので、マコちゃんに着せてもらったのですが、まるで着せ替え人形になったみたい。お化粧と髪を結うのは美香ちゃんにしてもらいました。
 着付けが終わると、3人でそのカッコのまま電車に乗り(はっきりいってすごい迷惑。スミマセン)、お店に向かいます。そこで、もう1人の女性イワちゃんと合流。本日は女4人の“ちんどん屋さん”なのでした。それぞれの役割は以下のとおり。わたし
 美香ちゃんは、ちんどん太鼓。
 マコちゃんは、大きな太鼓。
 イワちゃんは、クラリネット。
 私はチラシ配り。
 お店の前にある広い駐車場の敷地内で、演奏しながらチラシを配るとのこと。ぶっつけ本番なので、どうやるのかよくわかりませんが、スーパーのアルバイトと同じく、ニコニコしながら配ればいいんだ! そんな気持ちでスタートしました。

 大きな声で口上をのべる美香ちゃん。口上が終わると、昔懐かしい曲の演奏がスタートです。急ぎ足で歩いていた人が立ち止まってくれます。遠くのバスターミナルの人、タクシーの運転手、大人から子供まで、「なんだ?」って不思議そうに、こっちを見ています。
 「いらっしゃいませ。本日オープンです。お茶をプレゼントしています。こちら引換券です。飲んでいってくださいな」
 そういいながら配る私の顔を見て微笑んでくれる人、ギョッとする人。話かけてくれる人。さまざまな反応が楽しい。けれど眉間にシワを寄せて歩いている人が、なんて多いのでしょう。スーツ姿のサラリーマン。梅雨で蒸し暑いし、最近特に変な陽気だし。それに、なんといってもホントに景気悪いしね。気分まで暗くなってしまいます。なので、自然に「お疲れさま」って声がかけたい気持ちになっていました。
 
 こんな時代に新しくお店をオープンさせることは、とても勇気がいることです。お店のスタッフもたくさんいて、彼らの意気込みがヒシヒシと伝わってきました。今にも雨が降りそうな空を見上げながら、テントの下で子供たちにプレゼントするヨーヨーや風船、500mlのお茶を冷やしています。ほかには抽選でお皿やお菓子も当たります。
 「なんだか楽しそう」そんな演出を“ちんどん屋さん”は要求されていました。
 
 人が少なくなると、美香ちゃんの大きな声の口上が響きました。そして、長い帯を揺らしながら回転して踊る姿は、ホレボレするくらい迫力があり、さすがだと息を呑みました。涼しげな目線で、にこやかに太鼓をたたくマコちゃん、背中に宣伝用の大きな看板を貼り付けて、クラリネットを吹くイワちゃん。そこには長年の経験を積んだ、絵になる3人の姿がありました。
 そんな中で私はというと、楽器は持っていないわけで、扇子のように広げて持ったチラシがあるのみ。チラシを配る相手がいない場合、ボーッと立っているわけにもいかず、なんとかこう、楽しげな演出ができないものかと考えていました。そこで思いついたのが「ペンギン踊り」。そう、羞恥心がないといわれる私は、ついに踊りはじめたのでした。いえ、踊っているつもり‥‥です。見よう見真似で回転したり、ヒョコヒョコと首を振ってみたり。でも着物なので両手しか大きく動かせませんから、たぶんペンギンのように見えるだろうと思い、「ペンギン踊り」と命名したんです。
 自分1人がシロウトという中で、なんとしてもまわりに迷惑はかけられない。そんな気持ちだけは、とても強くありましたから‥‥。
 7時間の間、人は集まっては去り、集まっては去りの繰り返し。目の前をたくさんの人が過ぎていきました。
 
 ちんどん屋さん。
 おもしろい商売です。実は私、今までやったどんなアルバイトより、今日が楽しかったのです。暗いご時世だからこそ、“ちんどん屋さん”を見て懐かしんでもらい、珍しがってもらい、笑っていただく。なんだかやりがいがあるって、しみじみと思っちゃいました。

セルロイド製のペンギン

 翌日、東京国際展示場で「骨董ジャンボリー」という、日本最大の骨董市が開催されました。さすがに身体も頭も疲れていたので(特に足が痛い!)、ギリギリまで行こうかやめようかと悩んだのですが、「心に栄養!」なんて思い、行ってきました。そこで目にはいってきたのが、セルロイド製のペンギン2羽。昨日の「ペンギン踊り」のせいですね。なんだか親近感を覚えたりして‥‥。ピンク色の蝶ネクタイに燕尾服姿が、とてもステキなペンギンたち。仲間に出会ったような気分になり、一緒に帰ったのでした。
 
 しかし、さすがは日本最大の骨董市。ボロボロの状態で行っても、いろんな人に会えたし、たくさんのモノも見ることができて、満足、満足。楽しかったです。
 帰りは浜松町までフェリーに乗り、どんよりとした雲の下で、潮風に吹かれながら東京タワーや汐留の高層ビルを眺めつつ、
 「ここの眺めは、本当にきれいよね。すごく優雅な気分だわ」
 って、たまたま一緒になった産経新聞の記者の女性と話しながら、帰路についたのでした。それにしても、ものすご〜い量の人を見て、ものすご〜くしゃべった2日間でした。

弓屋かえる堂


2003年8月22日更新
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