第20回 お好み焼きだって、ごはんだ!(2)…今治・お好み焼き「京」からはじまるお好み焼き遍歴 |
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先日、久々に一日ほど実家に帰り、自転車(ママチャリ)で、市内をぶらぶらと散策した。東京の莫大な人の流れに麻痺しているせいか、あまりにも人気が少ないと感じてしまう街のなかをペダルをこいでいくと、昔よく通っていたお好み焼き屋「京」が見えてきた。私が高校のときに廃業したが、20年経つのに、看板や店の造作はそのままだ。この店こそが、私のお好み焼き遍歴の出発点と言える。
確か、小学校4〜5年のときに「京」はオープンした。店の人と父が知りあいだったこともあり、この店のお好み焼きが食事代わりとなることが多かった。特に土曜日の昼食は、ほぼ毎週「京」のお好み焼きだった。小学校が半ドンで終わり、家に帰ると母親から「京にお好み焼きを頼んであるから取っておいで」と言われる。そこで得意のリトラクタブルライト付き電飾自転車に乗り込み、お好み焼きを取りにいく。すると、おばさんが持ちかえり用に新聞紙でくるんでセットしておいてくれるのだった。ありがちな感想だが、ソースの匂いと新聞紙のインキが混じって、なんとも食欲をそそる不思議なアロマとなるのだった(アッパー系)。そしてお好み焼きを持ちかえり、13時から始まる「吉本新喜劇」をテレビで見つつ、お好み焼きを食べるというのが、これが土曜日の昼食の王道だった。
「京」のお好み焼きは生地はそれほどふわっとはしていない、具も肉と玉子とキャベツと天かすというオーソドックスな代物だったが、確か、私がテレビかなんかで、「広島焼き」の存在を知って、おばさんに「お好み焼きに焼きそばいれてよ」とお願いしたら、おばさんは理解できなかったようで、困り果てたあげく、なんと最初から生地のなかにそばを投入して焼き上げるという暴挙に出た。食べるとこれは当然おいしくなかったが、不思議なことに大食いの弟は「うまいうまい」と平らげてしまい、いつしか「京」のメニューに「お好み焼きそば入り」として組み込まれてしまった(笑)。
その後中学になった後は、市内のいくつかの店で「浮気」をしたものの、大体は「京」に落ち着くという形だった。他の店は高級すぎるか、またはお好み焼きにババアの縮れた髪の毛が混入するなど、衛生上で問題があったため、行きつけにはなりにくかったのだ。
しかし、高校になって「京」が、前述したように何らかの事情で廃業となってしまい、私は行き場所を失いかけた。しかし、「お好み焼きの神」は私を見捨ててなかったようで、強烈な店を発見することとなる。
その店は名前すらなかった。「京」からさほど離れていない路地にあり、入り口が開け放たれ、店のなかには椅子は2つほどしかなく、鉄板も一つあるだけだ。寡黙な巨体のおばさんがただ焼いていた。この店には大きな特徴が5つあった。一つは巨大な押しゴテでお好み焼きを作成することだった。お好み焼きを仕上げるときに、円盤状の押しゴテで「ぎゅ」とやるのだ。特徴のその2は、「ぎゅっ」とやらねばならないほど、巨大だったことだ。家に持ちかえり、親父に食べさせたところ、「おまえ、これは大き過ぎるよ」と言ったのを覚えている。3つめの特徴は、素材にもやしが入っていたことだ。それもふだん食べるような水っぽいものではなく、より繊維質のものだった。このもやしは後に、「広島焼き」で使用される種類のもやしであることが判明した。4つめの特徴はソースがすっぱいということだった。それもすごくすっぱい。あれだけは今考えても正体がわからない。広島焼きの特徴を持っているくせに、そのソースのすっぱさは甘い「おたふくソース」や辛い「カープソース」とは対極に位置するものだった。しかし、最後の特徴としてあげることだが、「安い」ということだった。確か肉玉で350円だったと思う。それも大食い高校生の私ですら「死にそうだ」というくらいの量だったことだ。これらの大きな特徴があったため、通いつづけることとなったが、店が狭いのとおばさんが寡黙なため決まって持ちかえりにした。ちなみに、おばさんはいろいろ客の融通に応じてくれるようで、なかにはお好み焼きにソースで炒めたご飯を入れてもらっているのがあって、今考えればあれは「そばめし」の変形バージョンだったのだなと思った。
かくして高校の3年間が過ぎ、私は大学進学のため上京しようという1986年の春に、挨拶も兼ねてこの店を訪れた。いつもは会話をしないおばさんだが、上京のためもう来れなくなると伝えたところ、おばさんは「そうかい、さみしくなるね」と言ってくれて、いつものお好み焼きをさらに倍にしたような巨大な代物をつくってくれて祝ってくれたことをおもいだした。
やはりソースはとてもすっぱかったが。
2004年6月3日更新
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