第２５回　魚が食べたい日々（４） …大阪北千里だいこんや 「トロあじの開き定食」

　大阪の千里ニュータウンで夕方に一仕事が終わった。このあたりの風景は、多摩ニュータウンととても似ていているが、ところどころが決定的に違うのだった。たとえば北大阪急行の終点の千里中央の地下改札の回りには、スタンドの食堂がずらりと並んでいて、結構「濃」そうな店が並んでいる。カレースタンドにしても、ありがちなチェーン店のそれではなく、おばはんと常連の客が冗談を言い合っていて、常連が出て行くと「また来てや！」とおばはんが声をかけてくれるのだった。梅田もそうだけど、ちょっと隙間ができると結構人間味あふれる飲食店ができるというのが大阪的だな。たぶん、将来大阪人が宇宙に乗り出しても、宇宙ステーションやカリスト基地の隅っこにこっそり立ちのみ屋台やタコ焼き屋をつくるに違いなかった。名前も「せっちゃん」とかコテコテの名前か、もしくは「ラグランジュ・ポイント」とかぶっとんだ名前と、両極端なんだろうね（笑）

　 しかしながら、千里中央とは違い、阪急千里線の北千里は、きわめて普通の街であった。仕事が終了して、結構へとへとだったので、ともかく何でもいいやと思って、駅ビルの２階にあった定食屋に入った。「だいこんや」という名前でどうやらチェーン店らしく、店内もこざっぱりとしていて、結構女性客もいる。まるで大戸屋のようだった。メニューにも似たような定食がある。どうせなら同じやつ食べてみようと思って、「トロあじの開き定食」を注文した。

　 大戸屋という存在は、実は「魚系定食」を食べるときの大いなる救世主であった。値段がそこそこで魚を食べたいときには実に重宝なのだ。さばの塩焼き定食なんて５００円台だからエライ。が、最近女客が増えたせいで、かなり入りづらいものがある。女性が増えたせいか、客の回転がにぶったせいか、やたらと混んでいる店が多いのも入りづらい理由だね。横浜駅の地下にも大戸屋があるけど、いつ通っても大変な行列で通りかかるおばさんたちが「よほどおいしいのかね」とささやき合っているのを何回か聞いたな。まあ季節ごとに創作料理っぽい定食を繰り広げるから、そのあたりも女子に人気な理由なのだろうね。どうでもいいけど、大戸屋の第一号店の池袋店なんて、昔は独身の野郎ばかりで、結構居心地よかったんだけどな。（大戸屋については交通新聞社から出ている「東京定食屋ブック」に詳しいです）
　 さて、このだいこんやというのは、どうやら母体がうどん系の店舗もやっているらしく、そのあたりが大阪的だな。そうこうしているうちに、「トロあじの開き」が到着。結構大きなあじの開きだ。身をごそごそ取って食べてみると、焼き過ぎず、生でもなく、あじの身が口のなかでほどけて、確かに、うまい。腹が減っているからさらにうまい。味噌汁も普通にうまいな。
よく考えれば、仕事も終わったんだから、何も求道的に定食をつついていなくてもいいわけだよな。そこで通りかかったお姉さんに「すみませーん、生中一丁！」と叫んだわけだった。
　 …実に完成されたおじさんの行動なのだった。

2004年８月12日更新
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