その44
『セルロイドハウス横浜館』とセルロイドのカエルの巻
平成17年3月25日金曜日。愛知万博開幕日という覚えやすい日に、『セルロイドハウス横浜館』がオープンしました。
『セルロイド・ドリーム』のご主人・平井英一さんに招待状を送っていただいた私は、テープカットもあるというメデタイ席に出席させていただくことになったのです。思えば、平井さんとはメールでのやりとりはありましたが、直接お会いするのははじめてのこと。ちょっぴりドキドキしつつも、駅前でささやかなお花を購入して会場に向かったのでした。
余談になりますが、セルロイド・ドリームさんのホームページhttp://www.celluya.com/index.html では、セルロイドの加工、彩色、製造過程を映像で見ることができ、会場でお会いした松尾和彦さんなどが書かれた「セルロイドサロン」は、セルロイドの歴史やまつわる物語が書かれていて、とてもおもしろいので、興味のある方はぜひぜひ。
さて、会場は知らない人ばかりかと思いきや、骨董市で何度もお会いしている人たちも数人きていたので、「ひさしぶり、元気?」と楽しく話しができたのは嬉しかったです。すぐに館長の岩井薫生さんが「ようこそ」と挨拶してくださり、肝心な平井さんは想像していたとおりの優しそうな男性で、はじめてお会いしたという感じはなく、自然と話ができました。
セルロイドハウス横浜館では、プラスチックの生みの親であるセルロイドでつくられた数多くの製品や、工具、金型、加工のための器械や補助道具が展示してあります。一時は日本が世界一の生産国ともうたわれたセルロイド産業が、残念ながら時代の流れの中で、すっかり忘れ去られようとしている現実を憂い、多くの方に知っていただきたいという、強い思いで開館したのです。その思いはセルロイドについて懐かしく、誇らしげに語っておられる招待客の方々から、十分に伝わってきました。
簡単に館内の説明をしましょう。1階では器械や道具が展示され、セルロイドの製造過程を紹介。金魚や招き猫の金型を見せてもらいましたが、すごく重たくてビックリしました。一番気になったのは自転車のチェーンカバー。セルロイド製だなんて、よくもまぁ、壊れずに残っていたものだと感心しました。
2階には図書館とセルロイドの収集品がたくさん飾ってあります。収集品の中には骨董市や骨董店で見たモノも多数あり、性?とは悲しいかな。「これ、欲しい〜」と、ついついつぶやいてしまいました。玩具はもちろんのこと洗面器や水筒、針入などの生活用品にはじまり、筆箱、下敷などの文房具、鏡やコンパクト、根付などの装身具たちが、セルロイド独特のカラフルな色合いで、ところせましと並んでいるのです。
セルロイドといえば、「その7 ピンク色のお面・前編」でも紹介しましたが、古いモノを集めるようになって大好きになったセルロイドのピンク色は、当然のごとくここにもたくさん並んでいました。薄くて繊細な素材なので、今にも壊れてしまいそうな、はかなさが魅力的なのはいうまでもありません。
1階2階を見学したのち3階でテープカットとなりました。
「プラスチックの生みの親であるセルロイドも、ほっておくと忘れ去られてしまいます。私はこの博物館を通して、今では製造ということでは日本を離れたセルロイドですが、アメリカで生まれ、日本で世界一の生産を誇ったセルロイドに、多くの方に触れていただき、“モノと技術、人と社会”の関わりについて感じていただけたらと。また形にすることで、若い人たちに伝えていきたいと思うのです」
という挨拶にはじまり、確かに骨董市や骨董店以外で、こんなに「セルロイド」という言葉を聞いたのは、はじめてだなぁと思ったのでした。そして軽食パーティーとなりましたが、ビールにワイン、電気ブランを片手に昔話に盛り上がっておられる様子は、端からみていても楽しい気分になります。
しばらくして、セルロイドがいかに加工しやすいのか実演が行われました。靴ベラです。靴ベラの形をした板状のセルロイドを90度の熱湯につけ、完成品の靴ベラにギュッと押し当てて、同じ形に曲がったら冷水につけると、あっという間に板状から立体的な靴ベラになったのです。「手造りだから高いよ」といわれつつも、私は靴ベラをいただきました。喜んで携帯靴ベラとして使いたいと思います。
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右から、平井さんのミーコちゃん。真ん中が、なみさんのミーコちゃん。左が、ママちゃんさんのミーコちゃんです |
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帰り道、平井さんと平井さんのつくっておられるセルロイドのお人形こと『ミーコちゃん』のファンである女性3人と一緒に食事をすることになりました。うち2人は自ら手づくりした可愛らしい洋服をミーコちゃんに着せていて、一緒にお出かけをしては写真を撮っておられるそうです。私も記念に撮らせてもらいましたが、丁寧につくられた可愛らしい洋服に、私にはこんなの作れないなぁと感心しきり。お人形のお父さんである平井さんの嬉しそうな笑顔が印象的でした。
さて、今回私がご紹介するのは、昭和22年に発行された『少年少女科学グラフ』です。日本の貿易を特集しているのですが、表紙がセルロイド玩具なのです。記事によると、「オモチャは戦前からかなり輸出されていましたが、金属製、セルロイド製は東京、木製、陶磁器製は名古屋、布製は大阪が盛んです。今後も有望なほうですが、中小企業及び家内工業が主で、原料のストックがないため、今のところ予定輸出額は1300萬円です。ゼンマイ製の奇抜な思いつきもものを作れば、アメリカに相当でることと思われます。−以下略−」と書いてありました。私がまだ生まれていなかった時代を、少しだけ垣間見ることができるのは楽しいです。
そして、もう1つ。カエルの浮き玩具です。今でもブリキ製の金魚とかありますが、そのセルロイド版なのでした。例によってピンク色で、実物のカエルとは程遠い色合いですが、形は妙にリアルだったりして、アンバランスな感じです。あまり見ないセルロイド玩具だと思っているのですが、いかがでしょうか。
最後になりましたが、セルロイドハウス横浜館の開館日は毎週木曜日。午前10時から午後4時までです。ただし、このほかの曜日についても前もってご予約していただければ、見ることができるそうです。
詳しくは『セルロイドハウス横浜館』 http://www.celluloidhouse.com/ まで。
2005年4月15日更新
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