その59 “萬年海綿器”と
“スタンプモイスチャー”の巻 |
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「あれ? これは…」
天沼寿子さんが書かれた『心地よい暮らしをつくる カントリーアンティーク』(集英社be文庫)を読んでいた時のことです。ふと手がとまり、マジマジと見入ってしまいました。
『切手を濡らす仕組みのすてきなローラー スタンプモイスチャー』と題して、白いどっしりとした陶器製の代物が紹介されていたのです。
「真ん中の丸い部分がくるくる回転します。四角い部分に水を入れて回すとローラーが濡れて、その上に切手をのせると切手が濡れるという仕組みです」
と書いてあります。思わず、
「同じだ!」
って声をあげちゃいました。
『ガラクタをちゃぶ台にのせて』(晶文社)でご紹介した“萬年海綿器”。これは“スタンプモイスチャー”とまったく同じ構造の代物でした。でも、天沼さんが紹介すると、なんてオシャレで、ステキなのでしょう。
私は昭和17年に実用新案登録された“萬年海綿器”を“萬年”という言葉から、海綿が減ることなく、一生使えるアイディア商品、そして当時は第二次世界大戦のただ中ですから、深刻な物資不足の中、節約商品であったかも知れないと紹介したのです(詳しくは本を読んでね)。
“萬年海綿器”は「これはなんだ?」って吸い込まれるような写真を、尊敬するカメラマン・坂本真典さんに撮っていただきました。『吉田照美のやる気MANMAN』(文化放送)に出演させていただいた時には、「萬年海綿器を指であやつる女」と話のネタになりました。そんなインパクトのある商品名と不思議なデザインの萬年海綿器。私にとっては非常に想い出深い大切なモノなのです。
天沼さんはアメリカ・リッチモンドで、このスタンプモイスチャーと出会われたそうです。そして、お店で印紙や切手を貼る時に使っておられるそうですが、
「こんなすてきなものがあった国なのに、今はペロペロ、時代が忙しくなったのでしょう」
と本文で書いておられます。確かに私も、会社で切手や収入印紙を貼る時に、海綿などは使っていません。個人的には切手をなめた時の味が嫌いなので、なめずにノリで貼っていますが、自宅で手紙を書いた時に“萬年海綿器”でも使おうかって気分には、悲しいかな、なりません。そもそも最近では手紙もあまり書かなくなりました。
「忙しくなったから?」
たまに自問自答してしまいます。私は時間の使い方が下手だと思うのです。時間がないと思う要因のひとつに、思うように進まない家事があります。とても当たり前のことですが、家事はエンドレス。くりかえし、くりかえし、なんですね。そのくりかえしを今までいいかげんにしてきたツケがいっぺんにやってきていると感じる今日この頃なのです。
でも考えてみたら、私はこのくりかえし、くりかえしの生活の中から、もっと便利に、もっと楽しくって、生まれてきたひと昔前の生活雑貨たちが好きなのです。だから私が今の生活をある程度納得のいく形で持続していくことができたら、今までとは少し違った目線で昔のモノたちと向きあえるかも知れないと思うようになりました。
オマケ
その58でご紹介した十三やさんのつげ櫛。実はもうひとつ持っていました。こちらは袋入りで、横書きの文字も右から書いてあり、戦前に販売されていた美しい仕上がりの櫛です。実用品にというよりは、自分のコレクションとして大切にしまっています。
2006年12月5日更新
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