その67 野球少年柄のランドセルとランドセル柄の帯の巻 |
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「まずいよなぁ、ぜったい…」
衣替えの時期になり、押入れの天袋を開けると、ついつい言葉がもれてしまって、ため息がでてしまいます。毎度のことながら、おのれの実行力のなさに頭を抱えてしまうのです。「やろう、やろう」と思い続けて約1年。天袋の中には、生まれてはじめて自分のために購入した着物と帯が入っていました。それも一度も着ないままです。紙箱に入れたまま天袋に入れっぱなしでは、着物が傷んでしまうと思いながらも、桐箪笥を置けるスペースはないし、桐の箱でも買おうかと思いながら、今日まで至ってしまったのでした。
しかし、ついにその時はきました。7月末日。新潟生まれの桐の二段箱が、わが家に届いたのです。ようやく着物たちの住処ができました。箱を開けて取り出すと、とても大きい…。天袋に持ち上げるのは大変ですが、着物のためです。少々遅いスタートではありますが、念願叶って紙箱の処分ができ、少ない着物グッズをまとめて整理できることになりました。
さて、どんな着物かというと、その49でご紹介した着物問屋『菱一』さんで、つくっていただいたもの。菱一さんとは、目白にある椿山荘にて定期的に開催されている『ひしの美会』にて、戦前のガラクタたちを展示させていただいたのがご縁となり、なんと私の集めてきたガラクタたちがデザインされた着物をつくってくださったのです。本当にすごい話です。私自身が一番驚いてしまいました。だって、ずいぶんとマニアックなモノたちが、着物の模様になったのですから、紹介された(?)モノたちにとっても、さぞかし嬉しかったに違いありません。それも着物、帯と種類が数点あり、全部欲しかったのですが、予算の都合上、悩みに悩んだ結果、2点の着物と帯1点を自分へのプレゼントとして購入しました。一生の記念として。ナンテネ。でもそれくらい勇気のいることでした。なんせ、はじめてですから。新品の着物は。
着物が届いた日は、なんだか不思議な気持ちでした。細長い箱を前にして、思わず正座したりして、ゆっくりとフタを開けました。心を落ち着けて紐をほどくと、上品にデザインされた美しい着物がでてきて、思わず、
「ガラクタもここまできたら、ガラクタじゃないよ」
なんてわけのわからないことをつぶやいちゃいました。
では、ご紹介しましょう。1つめは帯、『なごや帯』です。なんと、野球少年、ピッチャーが描かれたランドセルが織り込んであります。子供っぽい絵柄なのですが、色合いが渋い茶色で、とってもステキです。合わせ方によってはいいと思うんだけど、いかがでしょう。
野球少年が描かれたランドセルといえば、何点か持っていますが、本当に可愛らしくて、夢いっぱいな感じです。現在のランドセルよりは、だいぶ小さくて、軽いのですが、実用品としては、耐久性がいまひとつだったと、使っていた経験がある男性からうかがいました。女の子用としては、小鳥やお花などが描いてありますが、私は野球少年柄のランドセルが一番好きです。
2つめは着物です。グレーの地にブリキの金魚や達磨、黒猫の文鎮や貯金箱、水兵さんの貯金箱などの玩具が、まばらにデザインされています。絵柄の部分は絞りになっていて、子供っぽくなりがちな図案が、上品で大人っぽい仕上がりになっているのには、とても驚きました。
3つめは、黒地にブリキのジョウロや金魚、木製の電車などが、とても小さく刺繍してある着物です。パッと見ると玩具だなんてわかりません。きちんとした席にも活用できそうな着物に仕上がっています。
そういえば、以前目白にある『Lunco』の店主、ランコさんが、
「あすかちゃんが着物を着るなら、あんまり人が着ないような、個性的な柄で集めてみたらどうかしら? そのほうが楽しいし、あすかちゃんらしいわよ」
なんて、モノ選びと同じように着物も選びなさいっていってたっけ。その時にお店からつれてきた帯たちも、いまだに使っていませんが、汽車が描かれた帯と、町並みが描かれた帯で、夢があって可愛らしく、お気に入りなのです。思えば、菱一さんがつくってくれた着物たちも、どれもそんな感じです。万人受け?はしないけれど可愛らしく、私にとっては、格別に思い入れのある着物なのです。手元へやってきてよかったなぁとしみじみ思いました。
さっそく、着物たちを桐箱へ入れてみました。いい感じです。でも、いつ着られるのだろうと思うと、情けなくもなります。近所に簡単に着物を着せてくれて、いろいろ教えてくれる人いないかぁと思います。なんか難しそうなんですよね。着物って。おばあちゃんは毎日着ていたんだけど。ちんどん屋さんのアルバイトをしていた時は、全部着せてもらっていたし。着物へのあこがれはあるものの、現実生活とのギャップの大きさに、考え込んでしまうのでした。
しかし、オチが…。
桐の箱、押入れに入りません。賃貸マンションだから? お店の人は入るっていったけど、うちの押入れはサイズがおかしいのかな? 横にして入れるしかありません。勢いでこういうの、買ってはダメですね。ちゃんと寸法を測りましょう(当たり前だ!)。トホホ。あぁぁぁ、私の着物生活は遠し…、ますます感じた7月は終わりの話です。
2007年8月16日更新
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