一時期、古いモノの中でも貯金箱にしか目がいかない時期がありました。マイブームというか、ひとりで盛り上がってしまい、貯金箱を眺めに博物館へ行ったり、書籍を探したり。私にとって貯金箱は、夏休みの課題で何度もつくったせいなのか、貯金箱にお金を入れると親にほめられたせいなのか、懐かしさもあいまって、モノの存在としても、言葉のひびきとしても心惹かれるモノのひとつなのです。なので、私の部屋の飾り棚の中には、今でも数個の貯金箱が飾ってあります。
そういえば、昨年の会社の忘年会で、景品に貯金箱をだしました。タカラトミーさんから発売された「人生銀行」で、500円玉を貯めれば貯めるほど、貯金箱の住人たちの生活が豊かになるという代物。発売当初から意識していた私は、使ってみたくて当たりたかったのですが、残念ながらハズレ。今度買おうと思いつつ、まだ買っていない貯金箱なのです。
今回ご紹介する貯金箱は、忘れもしません。新宿の花園神社の骨董市で出会いました。それもデッドストックでまとまってでたのですが、見た瞬間、身体中にビビビっと電気が走るような、これほどまでに時代を物語った貯金箱には、今後出会えないかもしれないと思ったほど衝撃を受けました。それは陶製の貯金箱で全長125ミリ。「見ザル聞かザル言わザル」の三猿の形をしています。そして、猿のお腹には「防諜」という文字が描かれているのです。
「防諜」という言葉は戦中にはよく使われましたので、マッチケースや文具などさまざまなモノに見ることができますが、三猿と合わせたところがすごいというか、意味が深いと思うのです。「身近にスパイがいるかも知れない、見ザル聞かザル言わザルのようになろう」と物語る貯金箱、本当に時代の産物だと思います。
「見ザル聞かザル言わザル」という言葉は、昔から伝わる生きる知恵だと、私は最近とみに思います。祖母や母がよく使う言葉でもありましたし、時には見えなかったことにする、聞かなかったことにする、言わないでおくことが、人間関係をうまく続けるコツだと、昔の人はよくわかっていたと思うのです。
最近は、見すぎて、聞きすぎて、言いすぎて、疲れている人が多いような気がするのは、私だけでしょうか。安易に見れること、安易に聞ける(読める)こと、安易に言える(書ける)ことの度がすぎると、人の気持ちのほうが右往左往してしまい、肝心な自分の本心が見えなくなるような気がして、時々怖くなるのです。現代の三猿貯金箱のお腹に文字を書くならなんでしょう。「情報」かな? 私的には…。なんて、戦前につくられた「防諜」三猿貯金箱を眺めていたら、そんなことを考えてしまいました。
カエルの「見ガエル、聞かガエル、言わガエル」置物もあります。
2008年 7月2日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com
まで
その74 ビー玉、水晶、真珠、まんまるに惹かれての巻
その73 房総からやってきたウランガラスのビー玉と貝殻の巻
その72 切れ端の写真立てと国旗柄写真立ての巻
その71 富山の薬箱はひきだしの巻
その70 水アイロンと桜&鈴印のコテの巻
その69 『がらくたからもの』対談と主張する平和記念“糸とおし”の巻
その68 宇都宮からやって来た鳳凰が描かれた小箱の巻
その67 野球少年柄のランドセルとランドセル柄の帯の巻
その66 三峯神社と戦前の迷子札の巻
その65 浦賀からやってきた江戸時代の灯芯押さえの巻
その64 戦前の牛乳ビンは花瓶の巻
その63 便利な実用品『回轉式踏台』の巻
その62 美味しい野菜&野菜種袋の巻
その61 元旦の福袋!日満ポンプと戦前鉛筆削りの巻
その60 国産マッチ創始者『清水誠』とマッチ入れの巻
その59 “萬年海綿器”と“スタンプモイスチャー”の巻
その58 上野「十三や」のつげ櫛の巻
その57 斎藤真一『紅い陽の村』と『夫婦岩』の大皿の巻
その56 ケロちゃん色の帯と『LUNCOの夏着物展』の巻
その55 こわれてしまった招き猫「三吉」の巻
その54 下北沢の『古道具・月天』と画期的発明鉛筆削りの巻
その53 無料で魅力的なモノ、例えば「ケロちゃんの下敷き」の巻
その52 時間の整理と時間割の巻
その51 自分へのごほうび、昔の文房具に瞳キラキラの巻
その50 アンティーク家具を使ったブックカフェで…の巻
その49 『Lunco』と『小さなレトロ博物館』、着物だらけの1週間の巻
その48 コルゲンコーワのケロちゃんと『チェコのマッチラベル』の巻
その47 「旧軽の軽井沢レトロ館にてレースのハンカチを買う」の巻
その46 濱田研吾さんの『脇役本』、大山と富士山型貯金箱の巻
その45 横浜骨董ワールド&清涼飲料水瓶&ターコイズの指輪の巻
その44 『セルロイドハウス横浜館』とセルロイドのカエルの巻
その43 奈良土産は『征露軍凱旋記念』ブリキ皿の巻
その42 ブリキのはがき函と『我楽多じまん』の巻
その41 満州は新京の絵葉書の巻
その40 ムーラン鉛筆棚の巻
その39 「Luncoのオモシロ着物柄」の巻
その38 ペンギンのインキ壷の巻
その37 「更生の友」と「ナオール」こと、60年前の接着剤の巻
その36 鹿の角でできた「萬歳」簪の巻
その35 移動し続けた『骨董ファン』編集部と資生堂の石鹸入れの巻
その34 「蛙のチンドン屋さん」メンコと亀有名画座の巻
その33 ドウブツトナリグミ・マメカミシバヰの巻
その32 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 後編
その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編
その30 『家庭電気読本』と上野文庫のご主人について‥‥の巻
その29 ちんどん屋失敗談とノリタケになぐさめられて‥‥巻
その28 愛国イロハカルタの巻
その27 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
その26 「ラジオ体操の会・指導者之章」バッチと小野リサさんの巻
その25 針箱の巻
その24 カエルの藁人形と代用品の灰皿の巻
その23 『池袋骨董館』の『ラハリオ』からやってきた招き猫の巻
その22 東郷青児の一輪挿しの巻
その21 西郷隆盛貯金箱の巻
その20 爆弾型鉛筆削の巻
その19 へんてこケロちゃんの巻
その18 転んでもただでは起きない!達磨の巻
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻
その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻
→ |