「まぼろしチャンネル」の扉へ
「番組表」へ 「復刻ch」へ 「教育的ch」へ 「東京カリスマch」へ 「日曜研究家ch」へ 「あった、あったch」へ 「再放送」へ 「ネット局」へ
ら〜めん路漫避行
まぼろし書店・神保町店
少女漫画 ふろくの花園
帝都逍遙蕩尽日録
定食ニッポン
駅前ガラクタ商店街
日本絶滅紀行
怪獣千一夜
秘宝館
掲示板
マガジン登録
メール
まぼろし商店街
まぼろし洋品店

「ガラクタ商店街」タイトル

その80
マツダセレクトスイッチ電気時計と
『実用 電気時計総説』の巻

弓屋かえる堂さえきあすか


 小田急線の大和駅を挟んで、東西に細長くのびる「大和プロムナード古民具骨董市」は、約200件の骨董屋さんが並ぶ、活気ある骨董市です。
その78で紹介した時には、カメラを持っていなかったので、今回は市の様子を何枚か撮ろうと思ったのですが、人・人・人で、ぜんぜん写真が撮れません。じっくりモノを見るのも大変なのです。通りすがりの人たちからも「前に進めないねぇ」なんて言葉がでるほどで、用事でうかがった先で骨董市について尋ねても、年々盛況さが増しているとのこと。やはり駅を降りたらすぐという立地のよさと、200店という見応えはすごいですよね。全部見るのに軽く1時間はかかってしまいます。

マツダセレクトスイッチ時計
マツダセレクトスイッチ時計

 そんなたくさんあるお店の中で視界に飛び込んできたのは、芝浦マツダ工業株式会社製の“マツダセレクトスイッチ時計”でした。電気で動く時計で、後ろにプラグが付いています。文字盤のまわりには真鍮製のピンがついており、ひっぱるとタイマーとして使うことができます。下にある切り替えスイッチは、(手)の方に倒すと直接が流れてきて、(自)へ倒すと文字盤のまわりのピンで指定した時間だけ、ラジオなどに自動的に電気を流すことができるのです。ちなみにラジオのプラグは、時計の裏面に差し込めるようになっています。ボテッとした木製のデザインも可愛らしく、昭和11年(1936)頃につくられました。
 実は、マツダセレクトスイッチ時計は、同じモノが家にいるのです。けれど、関西で購入したために、周波数の違いで関東では使用できません(ちなみに、関東では50ヘルツ。関西では60ヘルツです。電気時計には60サイクルと書いてあります)。今回出会った電気時計は、状態もいい上に関東仕様なので、すぐにでも使用できるというモノ。しばらく悩んだのですが、同じモノが2つあってもなぁと思い、あきらめたのでした。

実用電気時計総説
実用電気時計総説

 電気時計といえば、『実用 電気時計総説(上巻)』(精密工業新聞社 昭和41年発行)が手元にあります。電気時計の歴史や基礎理論などをまとめた書籍で、赤と黒と金色が印象的な、美しい上製本です。裏表紙には、「話題のSEIKO 東京オリンピックで… 南極観測で… 各地の競技大会で… SEIKOの各種計時装置が活躍。その精密な時計は各方面の話題を集めています。SEIKOのすぐれた技術にご注目ください。」とSEIKOの広告が型押しされており、時世のわかる広告に、思わずニンマリしてしまいますが、この中にマツダのセレクトスイッチ時計も紹介してありました。

話題のSEIKO広告
話題のSEIKO広告

 昭和11年には、セレクトスイッチを使用したラジオ付時計や電気スタンド付時計などが、ビクターや東洋電気製作所などでつくられています。思えばテレビもない時代の話です。ラジオは貴重な情報源だったに違いありません。当時の広告を見ると「マツダセレクトスイッチ時計で、無駄な電気と心労を省きましょう」と書いてあります。現在のように部屋のどこかしこにコンセントもなく、家電にタイマーなど付いてなかった当時は、必要な時に必要な電気を、時計とラジオに自動で使用できること、時間と情報を同時に知れることは、当時の“最新”として、心躍ることだったのではないでしょうか。ただし、この電気時計は、時計というよりは家電製品として扱われたそうで、時計屋さんでは、あまり商われなかったようです。

ベークライト製マツダ電気時計
ベークライト製マツダ電気時計

 マツダの電気時計で、ベークライトでできた時計も持っていますが、こちらも関西仕様なので、残念ながら関東では使えません。デザインもアールデコを意識したカッコイイもので、昭和初期の雰囲気が漂うステキな時計だと思います。これらの電気時計たちは、都市部に電気というインフラが整ってきたからこそ、産まれた時計ともいえますが、昭和10年代から終戦を迎えるまで、電気時計をはじめ、時計の製造はストップしてしまったそうです。戦後も電気の供給が不安定で、需要が広がらなかったのでしょう。電気時計の生産は、昭和30年(1955)頃より再びはじまったそうです。当然その頃には、ベークライトの製品も、アールデコのデザインもなくなり、時世に合ったデザインの電気時計たちが産まれました。私は、昭和初期に産まれたマツダの電気時計を見ていると、先の電化時代を見通して、ひと足先に産まれていながら、時代の流れで消えていった時計として、とても愛しく思えるのです。

昔の文房具だけのお店
昔の文房具だけのお店

 話を骨董市にもどしまして、マツダセレクトスイッチ時計を売っておられるお店は、電気時計や腕時計、ブリキ玩具、万年筆、そして戦前の金庫の名板もたくさん売っておられ、ひそかに意識している私としては、かなり心動かされました。このお店以外にも、真鍮製のモノだけ売っているお店や、昔の文房具だけのお店、タイルがたくさんあるお店(ちょっとしたリフォームにいいかも、安価だし)、アルミ製品が中心のお店など、着物や陶器以外の専門店が何件もあり、恐るべし大和プロムナード古民具骨董市と思った次第です。

タイルがたくさんあるお店
タイルがたくさんあるお店



2008年 12月 17日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com まで


その79 『山梨水晶』カタログと“ブルームーンストーン”に恋をするの巻
その78 “タンク式洗濯器”と向田邦子さんを真似て古い小鉢を買うの巻
その77 たばこ祭りで買った煙草煎餅と煙草図柄皿の巻
その76 昭和13年ライオン常用日記と手帳の巻
その75 「防諜」を訴える三猿貯金箱の巻
その74 ビー玉、水晶、真珠、まんまるに惹かれての巻
その73 房総からやってきたウランガラスのビー玉と貝殻の巻
その72 切れ端の写真立てと国旗柄写真立ての巻
その71 富山の薬箱はひきだしの巻
その70 水アイロンと桜&鈴印のコテの巻
その69 『がらくたからもの』対談と主張する平和記念“糸とおし”の巻
その68 宇都宮からやって来た鳳凰が描かれた小箱の巻
その67 野球少年柄のランドセルとランドセル柄の帯の巻
その66 三峯神社と戦前の迷子札の巻
その65 浦賀からやってきた江戸時代の灯芯押さえの巻
その64 戦前の牛乳ビンは花瓶の巻
その63 便利な実用品『回轉式踏台』の巻
その62 美味しい野菜&野菜種袋の巻
その61 元旦の福袋!日満ポンプと戦前鉛筆削りの巻
その60 国産マッチ創始者『清水誠』とマッチ入れの巻
その59 “萬年海綿器”と“スタンプモイスチャー”の巻
その58 上野「十三や」のつげ櫛の巻
その57 斎藤真一『紅い陽の村』と『夫婦岩』の大皿の巻
その56 ケロちゃん色の帯と『LUNCOの夏着物展』の巻
その55 こわれてしまった招き猫「三吉」の巻
その54 下北沢の『古道具・月天』と画期的発明鉛筆削りの巻
その53 無料で魅力的なモノ、例えば「ケロちゃんの下敷き」の巻
その52 時間の整理と時間割の巻
その51 自分へのごほうび、昔の文房具に瞳キラキラの巻
その50 アンティーク家具を使ったブックカフェで…の巻
その49 『Lunco』と『小さなレトロ博物館』、着物だらけの1週間の巻
その48 コルゲンコーワのケロちゃんと『チェコのマッチラベル』の巻
その47 「旧軽の軽井沢レトロ館にてレースのハンカチを買う」の巻
その46 濱田研吾さんの『脇役本』、大山と富士山型貯金箱の巻
その45 横浜骨董ワールド&清涼飲料水瓶&ターコイズの指輪の巻
その44 『セルロイドハウス横浜館』とセルロイドのカエルの巻
その43 奈良土産は『征露軍凱旋記念』ブリキ皿の巻
その42 ブリキのはがき函と『我楽多じまん』の巻
その41 満州は新京の絵葉書の巻
その40 ムーラン鉛筆棚の巻
その39 「Luncoのオモシロ着物柄」の巻
その38 ペンギンのインキ壷の巻
その37 「更生の友」と「ナオール」こと、60年前の接着剤の巻
その36 鹿の角でできた「萬歳」簪の巻
その35 移動し続けた『骨董ファン』編集部と資生堂の石鹸入れの巻
その34 「蛙のチンドン屋さん」メンコと亀有名画座の巻
その33 ドウブツトナリグミ・マメカミシバヰの巻
その32 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 後編
その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編
その30 『家庭電気読本』と上野文庫のご主人について‥‥の巻
その29 ちんどん屋失敗談とノリタケになぐさめられて‥‥巻
その28 愛国イロハカルタの巻
その27 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
その26 「ラジオ体操の会・指導者之章」バッチと小野リサさんの巻
その25 針箱の巻
その24 カエルの藁人形と代用品の灰皿の巻
その23 『池袋骨董館』の『ラハリオ』からやってきた招き猫の巻
その22 東郷青児の一輪挿しの巻
その21 西郷隆盛貯金箱の巻
その20 爆弾型鉛筆削の巻
その19 へんてこケロちゃんの巻
その18 転んでもただでは起きない!達磨の巻
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻
その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


「カリスマチャンネル」の扉へ