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その86
防虫消毒香料発散機
「ムシキラー」の巻

弓屋かえる堂さえきあすか


   私の家には殺虫剤は置いていません。蚊取線香も古いモノはありますが、あくまでコレクションとしてであって、使うためのモノは置いていないのです([その1]野球蚊取線香の巻 参照)。
   築30年近い賃貸マンションで暮らしはじめて5年以上経ちますが、ものすごくラッキーなことに、このマンションではゴキブリを目にしたことがないのです(“奇跡の家”と呼んでいる)。玄関から侵入してきた蚊との戦いはあっても、蚊取線香を買うほどでもなく、害虫対策グッズには、ここ5年ほど縁がないのでした。実にありがたい話です。
   ところが、会社ではそうもいきません。夕方になると、「蚊にさされた!」と声があがり、「かゆい、かゆい」とみんなでブツブツ。なので、アースノーマットを使用することになったのですが、今のモノはとても小さくて、無表情といいますか、さっぱりしていますね。な〜んて思ってしまうのは、うちにいる“ムシキラー”を思い出したからです。

   ムシキラーとはなんぞや?

   アースノーマットの先祖(?)です。電卓でも携帯電話でも、今日のように小さくなる以前は、大きかった歴史があるのです。直径が140ミリほどあるまんまるいソレが、足元に鎮座ましておられる様子を想像すると、とてもチープで思わずニンマリ。昭和を感じてしまいます。昭和といえば余談ですが、先日新型インフルエンザ予防のために、マスクをして歩いていたら、ひとまわり年下の男の子に、
   「なにその昭和のカッコ〜は? 70年代の活動家みたいだよ」
   なんていわれてしまい、どうも最近古くさいこと、やぼったいこと(?)を“昭和”としていわれることが多くて、いっきにトシをとった気がするのは、私だけでしょうか?

ムシキラー
ムシキラー

   さて、話をムシキラーに戻しまして、写真を見てください。このステキなデザイン! 球体でありながら、上半分はプラスチック。水色をベースに赤い文字で“ムシキラー”と書いてあります。なんとも目立ちます。まるで自分がムシキラーであることを誇示するがごとくの色合いです。
   そして、まわりに手描きされたバラの花。う〜ん。なんとも表現しがたい、まさに昭和30年代、プラスチックが出まわりはじめた頃のデザインです。日本電化精器株式会社製で、“防虫消毒香料発散機”という、防虫と消毒と香料までふりまいてくれるという素晴らしい害虫対策グッズなのです。バラの花は香料のイメージなんですかね。

バラの花がチャーミング
バラの花がチャーミング


   しかし、特筆すべきはそれだけではありません。球体の下半分は、赤いメタリックな色合いで、アルマイトでできているのです。そうです。洗面器とかお弁当箱とかありましたよね。そして、球体を転がらないように3本の足で支えているのですが、これが白地の陶製なのです。
   つまり上から「プラスチック、アルマイト、陶器」という、時代が生んだ素材の寄せ集めといいますか、現代から見れば、なんとも無理があるといいますか、おもしろいデザインであり、おもしろい構造だと思うのです。こういうやぼったさは、眺めていると、けなげというか、一生懸命さが感じられて、心が癒されます。だからでしょう。このムシキラーは、戦前もモノをメインに集めている私としては珍しく、10年以上私のそばにいるのです。
   ちなみに、ムシキラーは兵庫県神戸市にあった“文化百貨店・鉄人マーケット”さんからやってきました。最近はホームページも更新しておられないようですし、私も関西からしばらく足が離れているので、現在どうなっているのかわかりませんが、またいつか行きたいなぁと思っている個性的なお店です。
   それにしても10年経っても、モノを見れば、買った当時の様子が思い出されるって不思議ですね。まさに、この感覚こそが旅の醍醐味ということでしょうか。最近はパソコンを通して簡単に古物も購入できるようになり、すごく便利ではありますが、そうやってモノを買ってしまうと、思い出というような、副産物が残らないのは、さみしいなぁと思う私です。そんなことを親しい業者さんに話したら、「古い!」っていわれちゃいましたケド。
   肝心なムシキラーの使用方法は、コンセントがついていますから電源をいれて、球体の中にいれた固形物をあたためるという、アースノーマットと同じ使用方法だと思われます。残念なことに、説明書も固形物もなく、これ以上はわかりませんが、飾っているだけで、楽しい気分になる害虫対策グッズなのです。

癒しのムシキラー
癒しのムシキラー



2009年10月1日更新


その85 笠間骨董我楽多市と一富士二鷹三茄子筆立ての巻
その84 喫茶店の中の東京タワーと『世界一の東京タワー』絵葉書の巻
その83 東洋の宝石「帝国ホテル・ライト館」名刺入れの巻
その82 昭和初期につくられた簪を入れた小引き出しの巻
その81 OCCUPIED JAPANの小箱と『伝統工芸 東北のこけし』の巻
その80 マツダセレクトスイッチ電気時計と『実用 電気時計総説』の巻
その79 『山梨水晶』カタログと“ブルームーンストーン”に恋をするの巻
その78 “タンク式洗濯器”と向田邦子さんを真似て古い小鉢を買うの巻
その77 たばこ祭りで買った煙草煎餅と煙草図柄皿の巻
その76 昭和13年ライオン常用日記と手帳の巻
その75 「防諜」を訴える三猿貯金箱の巻
その74 ビー玉、水晶、真珠、まんまるに惹かれての巻
その73 房総からやってきたウランガラスのビー玉と貝殻の巻
その72 切れ端の写真立てと国旗柄写真立ての巻
その71 富山の薬箱はひきだしの巻
その70 水アイロンと桜&鈴印のコテの巻
その69 『がらくたからもの』対談と主張する平和記念“糸とおし”の巻
その68 宇都宮からやって来た鳳凰が描かれた小箱の巻
その67 野球少年柄のランドセルとランドセル柄の帯の巻
その66 三峯神社と戦前の迷子札の巻
その65 浦賀からやってきた江戸時代の灯芯押さえの巻
その64 戦前の牛乳ビンは花瓶の巻
その63 便利な実用品『回轉式踏台』の巻
その62 美味しい野菜&野菜種袋の巻
その61 元旦の福袋!日満ポンプと戦前鉛筆削りの巻
その60 国産マッチ創始者『清水誠』とマッチ入れの巻
その59 “萬年海綿器”と“スタンプモイスチャー”の巻
その58 上野「十三や」のつげ櫛の巻
その57 斎藤真一『紅い陽の村』と『夫婦岩』の大皿の巻
その56 ケロちゃん色の帯と『LUNCOの夏着物展』の巻
その55 こわれてしまった招き猫「三吉」の巻
その54 下北沢の『古道具・月天』と画期的発明鉛筆削りの巻
その53 無料で魅力的なモノ、例えば「ケロちゃんの下敷き」の巻
その52 時間の整理と時間割の巻
その51 自分へのごほうび、昔の文房具に瞳キラキラの巻
その50 アンティーク家具を使ったブックカフェで…の巻
その49 『Lunco』と『小さなレトロ博物館』、着物だらけの1週間の巻
その48 コルゲンコーワのケロちゃんと『チェコのマッチラベル』の巻
その47 「旧軽の軽井沢レトロ館にてレースのハンカチを買う」の巻
その46 濱田研吾さんの『脇役本』、大山と富士山型貯金箱の巻
その45 横浜骨董ワールド&清涼飲料水瓶&ターコイズの指輪の巻
その44 『セルロイドハウス横浜館』とセルロイドのカエルの巻
その43 奈良土産は『征露軍凱旋記念』ブリキ皿の巻
その42 ブリキのはがき函と『我楽多じまん』の巻
その41 満州は新京の絵葉書の巻
その40 ムーラン鉛筆棚の巻
その39 「Luncoのオモシロ着物柄」の巻
その38 ペンギンのインキ壷の巻
その37 「更生の友」と「ナオール」こと、60年前の接着剤の巻
その36 鹿の角でできた「萬歳」簪の巻
その35 移動し続けた『骨董ファン』編集部と資生堂の石鹸入れの巻
その34 「蛙のチンドン屋さん」メンコと亀有名画座の巻
その33 ドウブツトナリグミ・マメカミシバヰの巻
その32 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 後編
その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編
その30 『家庭電気読本』と上野文庫のご主人について‥‥の巻
その29 ちんどん屋失敗談とノリタケになぐさめられて‥‥巻
その28 愛国イロハカルタの巻
その27 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
その26 「ラジオ体操の会・指導者之章」バッチと小野リサさんの巻
その25 針箱の巻
その24 カエルの藁人形と代用品の灰皿の巻
その23 『池袋骨董館』の『ラハリオ』からやってきた招き猫の巻
その22 東郷青児の一輪挿しの巻
その21 西郷隆盛貯金箱の巻
その20 爆弾型鉛筆削の巻
その19 へんてこケロちゃんの巻
その18 転んでもただでは起きない!達磨の巻
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻
その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
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その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


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